ラクダ隊商の隊長こと松本です。
その後いかがお過ごしでしょうか。
暦の上では・・・
なんとまあ、もう立秋ですってよ。
そんなこと急に言われたってさあ、関東地方はほんの一週間ちょっと前に梅雨明けしたばかりでさあ、ここのところ連日猛暑が続いていて、ああ、やっと夏が来た!って喜んでたのにさあ、なんでそんな水を差すようなこと言うのかねえ・・・やだわ。
だいたい天気予報の人だって「今が暑さのピーク」って言ってるんですよ。
それから会社の夏休みだってこれからってところが多いでしょう。
それなのに「残暑」とはどういうことですか。暑さに失礼じゃないですか。
長い長い梅雨を耐えに耐え、ようやく日の目を見た暑さなのです。いきなり残暑ってのはかわいそうってもんです。
とにかく暦ももっと時世に合わせてくれなきゃいけないと思うのです。
なにしろ日々温暖化している地球ですから、立秋なんて9月にしてしまっても構わないのではないでしょうか。
日本政府はサマータイムの導入とともに、地球温暖化暦の導入を、今こそ真剣に討議するべきだとおもー次第であります。
そんなわけで立秋だろうと残暑だろうと、それは言葉の上だけのことであって、毎日暑い日が続いております。
そんな中、我が仕事場は相変わらずエアコンなしでがんばっています。
頼りにしていたアサガオのつるも、未だにまったく窓に届かない始末で、さすがに暑いったらありゃしません。
なにしろ朝(6時頃)でこそ室温が30度を切っておりますが、7時には30度、8時には31度、9時には32度と、一時間一度の割合で室温が上昇して行くのです。
なのでこの時季は時計なんか必要ないです。
机の前に置いてある温度計を見て、「おっ、35度か。どうりでお腹が空くわけだ。さあ飯にしよう、メシメシ」と、気温で時間がわかってしまうのですから便利です。なんて恵まれた環境なのでしょう。
ちなみにここの室温は、だいたい外気温に2~3度足したくらいになります。
今はちょうどお昼で、気温もきっかり35度です。ひゃっほお!
心臓もとても喜んでいるようで、いつもより早く動いています。
*このメルマガの後半に続きます。
〔 中略 〕
*前半からの続きです。
さて、後半はインドのお話しです。
2泊3日にしては異様に長かったビカネールの旅も、いよいよ終わりに近づいて参りました。
【前回までのあらすじ】
ビカネール最後の晩餐はすべてホテルのおごりとなり、こんなことならもっと高いものを頼んでおけばよかったと、まったくヘリテージホテルの客にあるまじき卑しき素性の私だったのである。
【あらすじおしまい】
いよいよ最終日の朝を迎えました。
ああ、人生に別れはつきものと言うけれど、こんなに待遇が良くて、おまけに晩飯までおごってくれちゃうホテルなら、このままずぅーとここにいたいものです。
でもまあそうそう毎食おごってくれるわけでもなし、それに宿泊料だって取られるわけですから、やはりそこはまあ2泊くらいが限度でしょう。
そんなわけで後ろ髪を引かれつつ、2日間お世話になったホテルを後にしました。
今日はもう一路ジャイプールへと帰るだけなのですが、その前にまず車が向かった先は本屋でした。ビカネールの地図が欲しかった私が、ドライバー氏にお願いしたのです。
ドライバー氏は込み合うバザールを避けて、街道沿いに本屋を見つけようとしたのですが、結局大きな本屋はなく、お菓子や雑貨と一緒に新聞や雑誌を売る店があるくらいで、地図は手に入りませんでした。
そこでドライバー氏はようやくバザールに突入する覚悟を決め、人や動物、自転車やオートリキシャがひしめく細い路地に車を進めて来たのであります。
と、いよいよ車一台分くらいの幅しかない道に進入しようとしたその時、突然ガッタンと車が止まってしまったのでございます。
えっえ~、こんなところでエンストかよぉ~
キイを回してもうんともすんとも言わないところを見ると、こりゃバッテリーのトラブルだな・・・
しかしまあ、よりによってこんな所で止まるなんてついてないなあ。
ほらほら、通行人がみんなこちらを見て笑ってるじゃないかよお。
ところが、そこはさすが百戦錬磨のドライバー氏です。まったく動じる素振りも見せず、車から出てボンネットを開け中を確認するや、やおら傍らに転がっていた大きな石を両手で掴むと、ガッツンガッツン!エンジンルーム内の何かをぶっ叩き始めました。
おおっ、なんだなんだ、こんなんで直ったら自動車修理工はいらないぞ。車が壊れたら寺内貫太郎がみんな直しちゃうぞ。
なんてことを思っていましたら、満足のいく叩きができたのか、ドライバー氏は運転席に戻りひょいっとキイを回しました。
クケケケケケ・・・・ケッケッケ・・・ぶろろろろろろろろろ・・・
やだよお、エンジンかかっちゃったよ。この人石器で車直しちゃったよ。すっげえ~。
でもさあ、それ以前の問題でさあ、客を乗せるならもっと万全の整備をして欲しものですよ、ったくう。
そんな苦労をしたというのに結局地図は手に入らず、石器で直したアンバサダーは一路ジャイプールへと急いだのであります。
途中の休憩は往きと同じドライブインでした。
きっと安心して外国人観光客を連れて行ける場所が他にはないのでしょう。
なのでこの国道11号線のジャイプール・ビカネール間でドライブインを始めると儲かるかもしれません。まあこれから観光客が増えればって前提ですけどね。
さて、往きにはここでちょっと食べ過ぎてしまいましたので、今回は軽い食事にして、早めに車に戻るとまだドライバー氏が帰って来ていません。
そこでその辺を少し歩いてみることにしたのですが、この辺りは本当に砂漠ばかりで見るべきものがなにもありません。ただただベージュの大地がどこまでも広がっているだけです。
と、そんな風景を眺めておりましたら、いつの間にやら私のすぐ横に男が立っているのに気が付きました。
こういう突然の人の出現というのはインドではよくあることで、誰もいないと思って地図など引っ張り出して位置を確認していたりすると、どこからともなく人がわらわら集まり始め、みんなそれぞれに「どうした?」「どこへ行きたいんだ?」「政府のお土産屋ならこっちだぞ」「ほら、おれが案内してやる」とかなんとか言って、まんまとマージンの貰えるお土産屋なんかに連れ込まれたりするのです。あぶないあぶない。
その男はドライブインの関係者と思われましたが、ドライブインにもお土産のコーナーが併設されていたりしますので用心しなければならないでしょう。
そんな風に少し身構える私に、男はゆったりとした口調で話しかけて来ました。
「昨日もここに寄っただろ」
「いや、一昨日だ」
「そう、一昨日だ。 これからどっちへ向かうんだ?」
「ジャイプールだ。一昨日ビカネールに向かって、今日は帰りだ」
「そうか、ジャイプールか」
会話の内容はそんな他愛もないことでしたが、逆にそんな会話だからこそ、この男の日常がなんとなく想像できてしまうのでした。
きっとこの男にとって刺激と言えばここを通り過ぎる旅行者だけで、しかもその行先は「ビカネール」と「ジャイプール」のふたつだけで、そんな日常が「昨日」も「一昨日」も同じように過ぎて行ったのでしょう。
会話はそれきり途切れてしまいましたが、そろそろ立ち去ろうとする私に男がぽつりと言いました。
「また暑い季節がやって来る」
そう言われて見上げた空は、どこまでも果てしなく青く広がっており、確かに太陽は二日前より確実に近くなっているように感じたのでありました。
おしまい
たった2泊3日の旅行を、4月からの長きにわたり長々とご報告させて頂きましたが、ようやく今回で終わりました。
ビカネールという街は、観光客に人気のラジャスタン州の中でも、まだ無名に近い街です。特にあまり長い旅行日程の取れない日本人観光客には、ちょっと行きづらい場所かもしれません。
しかしそれだけに、すっかり観光地化されてしまい擦れ切った感のあるアグラやジャイプールにはない純朴なインドが残されているように感じました。
ぜひみなさんも機会がありましたら、ビカネールに行かれることをお奨め致します。
尚、今回のビカネール旅行はすべてデリーに支店を持つ日系の旅行社で手配して頂きました。
限られた予算で最高のお膳立てをして頂いたことに、この場をお借りして感謝申し上げます。ありがとうございました。
で、次回もまたどうぞよろしくお願い申し上げます。(あまり予算は取れないですが・・・)
というわけで今回はこの辺でお別れ致します。
また来週!