朝日というのはいつどこで見てもすがすがしくていいものです。
この写真の朝日は、インド亜大陸最南端の町カニャークマリでのものです。ただし、残念ながらこれは初日の出ではなく、それとはまったく反対の夏至に近い頃のものです。
カニャークマリはヒンドゥー教の聖地なので巡礼者が多く、信者は海で沐浴をしたりするのですが、ここの朝日や夕日を見ることもまた、信者や観光客の間では欠かせない行事となっています。
実は私はそれほど強く日の出を見たいとは思っていませんでした。まあ起きられたら見ればいいやくらいに考えていたのです。
ところが、そのホテルに宿泊している人たち(ほとんど全員インド人)は、ご来光を拝むことが旅の大きな目的のひとつであると考えており、ホテル側もまたそれを「売り」にしているようなので、日の出は見るのが当然という姿勢で臨んでいたのです。そのため親切にもホテルの従業員のじいさんが、夜明け前に各部屋を回り、大声と激しいノックで叩き起こしてくれるのです。
もちろん私の部屋にもじいさんはやって来ました。
暗闇の中に響く声はとても年寄りの声とは思えないくらい大きく、まさかそんな親切なモーニングコールがあるとも知らない私はびっくりして飛び起きました。火事かなにかだと思ったのです。
部屋のドアを開けると、じいさんが立っていました。そしてさらに追い討ちをかけるように、「早く起きなきゃ朝日が昇っちまうぞ!」と強い口調で言うのです。
そんなホテルなのですが一応屋上なんてしゃれたものがありまして、みんなしてぞろぞろと屋上へ続く階段を上がって行きました。
南インドの夏とは言え、まだ明けやらぬ屋上は風が少し肌寒く、手持ち無沙汰で暗い海を眺めておりますと、細い光の帯が沖へと続いているのが見えました。どうやらたくさんの小さな漁船が出漁して行くところのようです。
あー、ここの人たちはいつもこんなに早くから働いているのかあ・・・
やがて東の空が白み、次いで薄くもやのかかった水平線がオレンジ色に染まり始めました。上空を見上げると、すでに空は青くなっていました。
でもなかなか太陽は顔を出しません。
もしかしたら今朝はもやで見えないのではないだろうか・・・
と思ったとき、ぼんやりとではありましたが、ついに太陽が顔を出しました。
もやに遮られながらも、上空に向かって扇状の光の帯を輝かせています。
ああ、ご来光だ! ありがたやありがたや・・・
聖地の朝日に照らされた私の体は、まるで新しい命を吹き込まれたように力が湧き、そして心は生まれ変わったようにすがすがしく思えました。
よおーし!
そんな風に気合を入れた私でしたが、結局部屋に戻るとベッドに横になり、また怠惰な一日を過ごしてしまうのでありました。
「初心、忘るべからず!」
[dfads params=’groups=39&limit=1′]