朝のデリーはなかなかに慌しい。 会社や学校に向かう人々は、バスやタクシー、オートリキシャやサイクルリキシャなどを利用して先を急ぐ。
そして私も、一台のオートリキシャを捕まえて先を急いでいた。
しかし、
インドは決して「急がない」国であった・・・
通勤通学で混み合う交差点、赤信号で停車したオートリキシャでありましたが、突然「ぽん!」という軽い破裂音がしたかと思うと、それきりエンジンが動かなくなってしまいました。
ドライバー氏は何度もスターターを動かすのですが、その度にエンジンは「ぽこぽこぽこ・・・」というむなしくもやる気の無い音を出すだけで、一向に動く気配はありません。
やがて前方の信号が青に変わると、容赦の無いクラクションの嵐が、後部座席に座る私の後頭部にばしばしぶつかって来ました。
「おい、なんとかしろよ・・・」
ドライバー氏はオートリキシャから下り、私を乗せたまま道の端まで押して行きましたが、そこはまだ「交差点の中」とも言える左折専用レーンです。「すぐに修理するからお前は乗っていろ」
と言われても、万が一後ろから来た車に追突でもされたらたまりません。すぐに後部座席から出て、安全な歩道に避難しました。
ドライバー氏は後部ハッチを開け、エンジンと格闘しています。
ちょっと好奇心が湧き、私も中を覗いて見ましたら、エンジンから点火プラグが抜けてしまったようです。さっきの「ぽん!」という音は、点火プラグが抜けた音だったようです。
ドライバー氏は専用レンチでプラグをエンジンに取り付けようと奮闘していますが、そもそもプラグが抜けてしまうということは、規格が合っていないかネジ山がバカになってしまっているかのどちらかでしょう。その証拠に、いくらやってもプラグはエンジンに固定されません。
私は呆れてしまい、照りつける日差しを避けて木陰に入り、代わりのオートリキシャを探し始めました。
すると程なく、エンジンと格闘していたドライバー氏が声を掛けて来ました。
「乗れ」
えっ? と思いながらも再び後部座席に収まり、ドライバー氏がスターターを動かすと・・・
タタタタタ、タン、タン、タンタンタン・・・
とエンジンがかかったではありませんか。
う~ん、不思議と言うかすごいと言うか、どうやってプラグを固定したかは知らないけど、少なくともこのドライバーは、この先もこのままで営業を続けるであろうことは容易に想像できるのでありました。
もっとちゃんと直した方が、長い目で見たら安上がりだと思うのですがねえ・・・
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