アーユルヴェーダで身も心もリフレッシュし、ついでに歯までもシェイプした私は、旅の疲れもありその晩はぐっすり眠りました。
翌朝、「早朝ヨガのコースに参加して来ます」というC君を見送り、私はゆっくり起き出すと、リシュケシの街を見下しながらバスタブに身を沈めました。
はあ~、なんていい気分なんだ。アーナンダ最高!
しかしそんな快適なホテルライフにも別れがやって参ります。朝食を済ませ、身支度を整えるともうチェックアウトの時間が来てしまったのです。
ああっ、できることならこの贅沢な時を永遠につなぎとめられたらなあ・・・
いっそのこと、アーナンダさんちの子になっちゃって、一生幸せに暮らしました、めでたしめでたしになったらなあ・・・
そんなことを言っても、時間は確実に過ぎて行くものですし、だいいちアーナンダさんちはタダではないので、一生ここで幸せに暮らすには莫大なお金が必要と思われ、それではぜんぜんめでたしめでたしなんかになんないので、ここは分別のあるオトナとして、素直に帰途につくことに致しました。
迎えの車に乗り込むと、ホテルの人たちに見送られ私たちは出発しました。
あとはリシュケシの街を目指して山を下って行くだけ、と思っておりましたら、車はもと来た道とは反対側に進み始めました。
C君に聞くと、少し時間があるのでこの近くの観光ポイントへ案内してくれるとのことでした。
車は蛇行する山道を登って行きます。
そして登るにつれ道幅はだんだん狭くなり、ついには片側が断崖絶壁でガードレールなどもない、実に危険極まりない山道へと入って来ました。
しかも車は結構スピードを上げて走ります。本当にこんな危なっかしい道の先に、観光スポットなどあるのでしょうか?
そんな風に何度か肝をつぶしそうになりながらも、その道の行き着く先であるヒンドゥー寺院「クンジャプリ」に、私たちは無事到着しました。
しかし、正確には車の到着したのは寺院に行くための駐車場であり、クンジャプリ寺院はここ
からさらに長い階段を上がらなければならないのです。
クンジャプリ寺院は海抜1645mの高所にありますので、下界に比べたら気温は低いとはいうものの、6月の北インドですからやはり暑いです。
その暑い中、目の前からぐうーん!と上に伸びる階段を登る気になどなれないのですが、せっかくドライバーさんが気を利かせて連れて来てくれたわけですから、行かないわけにはいかないでしょう。行かないときっと悲しい目でじいーと見たりするでしょう。
まあせっかくここまで来たのだからと、私とC君は階段をえっちらおっちら登り始めました。
登り始めるとすぐ、後から来たインド人の青年たちに追い抜かれました。
さらに登り続けると、今度はインド人の子どもたちに追い抜かれました。
そんな元気な青年や子どもたちの後姿を見送り、ちょっと後ろを振り返って見ると、その子たちのおばあさんと思われる、サリーを着た老齢のかなりふくよかな女性が登って来るではありませんか。
あー、あんなおばあさんも登って来るんだ・・・
さすがにそのおばさんに抜かれてはニッポン男児の恥になると思い、何度か休みながらも必死になって一歩ずつ階段を登り続け、ようやくのことで寺院の門にたどり着いたのであります。
寺院の門の両脇には寝そべるような姿勢の変なライオンが、口を半開きにしながらもスルドイ目ではるか眼下のリシュケシを睨み据え、門の上部にはやはり目つきのスルドイ象もいたりなんかして、ようやくたどり着いた参詣者の度肝を抜くのでした。
境内の中央には小さな白い寺院があり、何組かの信者が裸足になって寺院に入って行きました。
寺院の中を覗くと中は少し薄暗く、神様の像かなにかがあるようで、その前で人々が熱心にお祈りをしています。
私はヒンドゥー教徒ではないのでお参りはせず、周囲の柵にそって境内を一周してみたのですが、そうするとこの寺院は本当に山のてっぺんに建てられているということがよくわかりました。つまりそこからは、360度の雄大な眺望が楽しめるのです。
おー、すごいすごい!
苦労して登って来た甲斐があったというものだ。
そんなすばらしい景色に感動し、私はデジカメですばやくムービー撮影を始めたのですが、C君が山に向かって発した「あー!」という大声までもをマイクが拾ってしまい、なんだかなあのクンジャプリ寺院見学だったのであります。
つづく