細密画その1

微に入り細をうがつ実に繊細な仕事なのだ

小学生の頃、図工の時間が写生だったりしますと、授業の二時間分を使って近所の野山にぞろぞろ出掛けたものでした。
景色のいいところまでやって参りますと、それぞれ好みの場所に陣取って下描きから始め、時間内に絵具まで塗れるようにがんばるわけですが、私は教室から外に出られたのがうれしくて、とても絵を描くどころではありません。同類の友達を見つけて、先生に見つからないように鬼ごっこなんてしてました。
そもそも教室で静かに座っているのが苦手な子どもでしたから、じっとして絵なんか描いてられないのです。

インドの細密画そんな子どもも大人になって少しはじっとしていられるようになりましたが、インドで細密画の制作風景を見せてもらったときには、そのあまりに細かい作業に自分の指先が震え出すような感覚に陥りました。
特にやり直しのきかない輪郭線を引くところなんて、見ていてハラハラしてしまいます。線が曲がらないかとか、太さが変わりはしないかとか、そんな余計なことを考えてしまうのです。

しかしそんな私の思いを知ってか知らずか(まあたぶん知らないでしょうけど)、職人さんの手は細い筆を見事に操って、つつっーときれいな線を描いて行くのでした。

以前絵を生業としている人に「その日最初に描く線の引け具合でその日の調子がわかる」という話を聞いたことがありますが、そうすると私の見た細密画の職人さんは、「今日もなかなか調子がいいぞ!わっはっはっ!」という感じでした。

さて、そんな職人さんが使っているのはこんな筆です。

インドの細密画の筆この筆はリスの尻尾の毛で作られているのですが、驚いてしまうのがこの筆一本、本当にこの一本の筆だけですべてを描いているようなのです。まあ「ようなのです」というのは、私は四六時中監視していたわけではないので、もしかしたら途中でGペンなんか取り出して顔のあたりを描いていたかもしれないという、まずあり得ないようなことを想定してのボカシ表現なわけで、実際私が見ていた範囲では、色を変える時も同じ筆を使っていました。

インドの細密画はもともとあった民俗画の下地にムガル帝国の文化が交わることで発展し、17世紀から18世紀にかけて大きく花開いたインド独自の文化です。
細密画で描く内容は王宮の豪華な生活風景や王族の肖像画、ヒンドゥー教の神話(とりわけクリシュナ伝説)が主流となるのですが、最近では動物や植物など、ごく身近なものも題材とされるようになって来ました。

私も動物を描いたものが気に入りいくつか購入して来ましたが、この職人技を支えている筆の材料であるリスが見当たらなかったのは、ちょっとかわいそうな気がしたのでありました。

そんなインドの細密画は「ラクダ隊商パインズクラブ楽天市場店」にて販売しております。

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