「機能美」とは使ってさらに光るもの
ブロックプリントの布をご紹介した時(その記事はこちらです)にも書きましたが、一枚の布を染め上げるにもいくつもの工程があり、それぞれに職人さんが携わっております。
これは日本の浮世絵でも同じで、元絵を描く「絵師」、版木を彫り上げる「彫師」、そして版木で刷り上げる「刷師」といった高度な技術を持った職人さんたちが揃ってこそ、あのすばらしい浮世絵が世に出るわけです。
で、今回はそのブロックプリント版「彫師」の分担である版木のお話です。
この道(インド雑貨屋)の大先輩のお店にお邪魔した時に、それはそれはすばらしい版木が展示してあり、お話を伺うことができました。
*注:この写真は当店保有の使用済み版木です。
その版木は私が知っているハンディータイプのものとは違い、かなり大きなものでした。
でも私が驚いたのはその大きさではありません。柄を構成するいくつもの細い線が、実に見事に彫り上げられていたことでした。
一番細いものは1mmあるかないかという幅で、それがきれいな曲線を描いてすぅーと延びているのです。
私は初めその細い線を見たとき、そこだけは木を彫り出したものではなく、薄い金属板でも埋め込んでいるのだろうと思ったほどでした。
私は版木に顔を近づけてまじまじと見ました。
正直な話、間近で見てもまだ「金属板じゃ・・・」という思いが拭い去れないほど、その細い線は均一な幅と滑らかさでカーブを描いています。
そこでご店主にお話を伺ったところ、その版木はご店主が仕入れの旅で巡り合った彫師の作品で、その彫師の腕は権威ある賞を受けるほどのものなのだということでした。なのでもちろんすべての線は一つの木から彫り上げたものだったのです。
でまあ、ご店主もその腕にほれ込んで、かなり無理を言ってその版木を譲り受けて来たということなのであります。
しかしその版木がすごいのは、なにも線の美しさだけではありません。
あくまでも版木として彫られたものですから、そこには布を染めるための「実用品」としてのノウハウがぎっしり詰まっているということなのです。
もっとも私はその道では素人ですから、そこにどのようなノウハウが隠されているのか、正確にはよくわかりません。
でもそんな素人が考え付くだけでも、表面の平面度とか染料の乗り具合、また染料の目詰まり防止や正確に版を重ねるための目印など、さまざまな工夫が施されているはずなのです。そもそも私が最初見て驚いた細い線だって、ただ単にきれいに仕上がっていればいいというものではなく、使用に耐え得るだけの強度が必要なはずなのです。
つまりです、版木が持つ美しさはいわゆる「機能美」なのだということなのです。
そしてその機能美を満載した版木は、使われてこそ価値があり、使い込まれてさらにその美しさに磨きがかかるのだと思うのです。
彼らは版木を徹底的に使います。
割れたところにカスガイを打ち、欠け落ちた部分に接ぎ木をし、磨滅してもうこれ以上使えないというところまで徹底的に使います。
そして本来の役目を終えた版木は、ようやく観賞用として静かな余生を送るのであります。
そんな使用済みの版木は「ラクダ隊商パインズクラブ楽天市場店」にて販売しておりますので、ぜひお手元に置いて静かな余生を送らせてあげて下さい。