browser icon
You are using an insecure version of your web browser. Please update your browser!
Using an outdated browser makes your computer unsafe. For a safer, faster, more enjoyable user experience, please update your browser today or try a newer browser.

ホームにて:マルガオ駅

         
  • 公開日:2010年9月7日
  • 最終更新日:2022年6月6日

マルガオ駅は私の想像とはだいぶ違ったものでした。

長い旅路の果てにようやくたどり着いたそこには、トタン屋根のついたゆるいスロープがまっすぐに延び、ふたつのプラットホームをまたいで向こう側へと続いているだけでした。
そしてそんな通路では、はたしてこの人たち列車に乗るんだろうか?というような感じのおっさんたちが立ち話なんぞをしており、なんとものんびりとした空気が漂っております。私はとりあえず通路を渡って向こう側に出てみました。

するとそこにはちゃんと二階建ての駅舎があり、車寄せの大きな屋根なんかもありました。
な~んだ、こちらが表側だったんですね。とは言え駅の周囲はひっそりとしていて、やはり私が想像していたインドによくある「喧噪の真っただ中」の駅というものとはだいぶ違っているのです。

まあなにはともあれ無事に駅に着きましたので、駅の大きさやにぎやかさなどもうどうでもいいのです。
そんなことよりまずは私の席(寝台)が確保されているのか確認することが先決なのです。私はさっそく駅舎の一階にある窓口でチケットを示しながら、現在私がおかれている状況がはたしてどのようなものであるかということを聞いてみました。

すると窓口の職員は、

「あー、それは7時にならなきゃわからないね」

などと軽く言うのですよ。

7時ってあーた・・・まだ今1時半だよ、ねえ。

そりゃあまあ私が乗ろうとしている列車は夜の9時30分出発のものですから、7時というのはそれよりも2時間半も前にあたりますので、それで充分だろ、なぁっ!なんて言われたら(そこまでは言われてませんが)すごすご引き下がるしかないのかもしれませんが、もしそこまで待って「取れてません」なんてことになっても、それからまた来た道を引き返してパナジに戻るなんてのはとうてい無理、というかヤダ、絶対にヤダ!田舎道怖いですもん!なのであります。

しかし相手はインド国鉄の職員で、その人が「7時だ」と言ってる以上はもうどうにもならないでしょう。

とにかくそれまでこのホームで静かに待つしかないのです、あと5時間半、そして列車の出発までの8時間・・・・と、空いているベンチに腰掛けてしばしボォーとしていた私ですが、ふと、「あっ、もしかしたらチケットの予約オフィスで聞けばわかるかも」と思い立ち、駅舎の二階にあるオフィスへと行ってみたのであります。

が、

今日は日曜日で業務は午後2時までということで、私がオフィスに入ったちょうどその時、いくつかある窓口のカーテンが、ちゃっ!ちゃっ!と次々に閉められて行くところだったのであります。

あー、この状況じゃ絶対お願いしてもムリだあ~!

どうせなら初めから休みだったらよかったのにい~

と、自分が30分近くもボォーとしていたことを棚に上げ、インド国鉄職員の勤務体制を非難してみたりしたのであります。

もうこうなったらあとは「待つ」しかないわけです。ひたすら「待つ」しかないわけです。

この犬のように少しでも風通しの良さそうな所を選んで・・・やがて駅構内の食堂や本屋がシャッターを下ろしました。
どうやら昼の営業が終わって、例の長い昼休みに入るようです。

まっ、もっともこちらはもっと長い昼休みに入ってるわけですけどね。

ホームに貨物列車が入って来て、いくつかの荷物を降ろし、そしてまたいくつかの荷物を積んで出て行きました。

しばらくすると今度は客車が入って来て、欧米人らしい旅行者が大きなザックを担いで乗り込んで行きました。

いいなあ、あいつらもう乗れていいなあ・・・それにしてもインド人というのは、日頃からよくまあこうしてひたすら待つということをするよなあ。

前のベンチに座っていたシークのあんちゃんが振り向き、私にポテトチップをくれたので、いったい何時の列車に乗るのか?と聞いてみたところ、「6時だ」と言いました。いいなあ、シークのあんちゃんの列車は早い時間でいいなあ・・・

一度閉まった目の前の本屋がシャッターを開けました。

6時40分、ついにホームに灯がともりました。

あぁ、暗くなって来た。もう絶対あの田舎道は引き返せないな・・・
もし寝台が取れなかったらこのままホームで夜明かしして、明日の朝パナジへ戻ろうかな・・・そんな不安がむくむくと湧きあがって来たころ、ついに掲示板に乗客名簿が貼り出されました。えーと・・・私の名前・・・わたしのなまえ・・・ワタシノナマエ・・・

あった! ありました! ちゃんと寝台が確保されてました!

やったあ!これで寝ながら移動できるし、あの田舎道を引き返さなくて済むぞ!

これでようやく私の身の上は安泰となりました。
こうなるとあとの2時間半の待ち時間など物の数ではありません。
なにしろ私はすでに5時間半もじっとここで待っていたのです。2時間半などその半分にも満たない数字じゃないですか、はははははは!

心に余裕のできた私は、列車に乗り込んだらすぐに寝られるようにと、ホームに設置されている水道の所に行き歯を磨き始めました。

歯を磨きながらあらためてホームを見渡しましたら、他のインド人たちはかなりくつろいでいる様子で、特に家族連れの子どもなどはパジャマに着替えていたりしてまるで家にいるように振舞っていることがわかりました。
そしてかく言う私もこうして歯なんか磨いちゃったりしていて、かなりここに馴染んで来ていることに気付いたのです。

そして、

なるほどなあ、まさしくここは「ホーム」なんだなあ。インドの駅のホームは家という意味そのままなんだなあ。

なんてことを考えたのでありました。

ようやく。本当にようやく。私の乗る列車がホームに入って来ました。

実に長い長い一日でしたが、それももうすぐ終わります。

あの列車に乗ってしまえば・・・

あっ、

なんで向こう側のホームなんだよお!

次のページへ行く目次へ行く前のページへ行く

インドのショール