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ごく当たり前のことがインドでは実にありがたく感じるのである:2013年グジャラートの旅:エピソード編・第18回

         
  • 公開日:2014年2月3日
  • 最終更新日:2022年6月15日

せっかく早起きをしたのにと言うべきか、早起きをしたからまだよかったのだと言うべきなのか。

快調に走っていたバスは、ジャムナガルの郊外に出たところで突然止まってしまった。
バスが停車したということではない、エンジンが止まってしまったのである。

前日ジャムナガルのバスターミナルでブジ行のバスの時間を尋ねたところ、案内所のおっさんは何も見ずに「6時30分、8時、9時、10時15分・・・」とすらすら答えたので驚いた。
いくらプロとはいえ数多くの路線を抱えるバスターミナルである。テレビでやってるローカルバス乗り継ぎ旅でもこんな光景は見たことない。これには蛭子さんも太川陽介もびっくりであろう。ジャムナガルからブジまでは約280kmの距離があり、バスで7時間とのことであったが、たいていそれ以上に時間がかかるので、ここはやはり8時間は覚悟しておいた方がいい。
そしてブジも初めて行く町なので、なんとしても日暮れ前に宿を決めてしまいたい。
そのためには午後3時頃までにはブジに到着したいところなので、逆算するとジャムナガルは午前7時前に発たなければならないことになる。

ということで、おっさんの口から出た時刻で行けば、一番早い6時30分発に乗らなければならない。
そりゃまあ公式発表の「所要7時間」というのが本当なら、次の8時ちょうどのぉ~、あずさ2号で~もいいのだが、インドでは何があるかわからないので、念には念を入れて6時30分発のバスに決めた。

そしたらほら、エンジンが止まっちゃったよ。

動かなくなったバスの車内であらためてあちこち眺めてみたら、ずいぶんボロッちいバスである。今まで動いていたのが不思議に思えて来るほどである。
しかしここはなんとか動いてもらわなければならない。冗談にも後から来る8時発のバスに乗り換えろなんて言わないでくれ。それじゃ到着が遅くなるばかりか、きっと座れず立ったまま行くことになるだろう。あれから肉も食べていないというのに、それじゃあんまりである。運転手は何度もセルモーターを回すが、エンジンはうんともすんとも言わない。
あまり何度も連続してセルモーターを使うと、今度はバッテリーが上がってしまいそうで怖い。

はたして運転手はエンジンの故障を直せるのだろうか。それとも車掌がそういう技能を持っているのだろうか。
まさか「この中にエンジニアはいらっしゃいませんか~」と聞いて回るのではないだろうなあ。

運転席ではなにやらやっているようだが、このバスは運転席と客室との間に仕切りがあり、また私の席は後ろの方なので良く見えない。

まあとにかく私が気をもんでどうにかなる問題でもないと、バスを降りて外に出てみることにした。

ちょうど朝日が昇って来るところであった。きれいだなあ。

外から運転席を覗くと運転手ではない男が二人、エンジンをいじっていた。
元々バスに乗り組んでいるエンジニアなのか、たまたま乗り合わせた技能者なのかはわからないが、黙々と作業する男を見たらなんとかなりそうな気がして来た。20分ほども経っただろうか、バスは再び息を吹き返した。
エンジン音はちょっと頼りなく聞こえなくもなかったが、確かにエンジンは回っている。

私は思わず拍手をした。
周りのインド人も拍手をした。
乗客に一体感が生まれた瞬間であった。

そんな乗客の共通の祈りが通じたのか、その後バスはエンストすることもなくブジまで走り続けた。

ただ一度、工事のために作られたう回路がかなり深くくぼんでいて、バスは後のバンパーを激しく地面に打ち付けてしまった。
すでにあちこちぶつけてボコボコのバスなのに、わざわざ路肩に停めて運転手と車掌が確認に行ったほどのダメージであったので、はたしてこの後予定通り走れるのか心配されたが、これもなんとかなった。

このようにインドでは不測の事態というのが実に多い。
日本では当たり前のことがここでは当たり前ではなく、「普通」というのが本当にありがたく思えて来る。

結局エンストしたこともあり、ブジまでは8時間半かかった。長距離の路線バスではたいていそうなのだが、今回も始発のジャムナガルから終点のブジまで乗ったのは、乗務員を除けばわれわれ二人だけのようであった。

そんな乗務員とは長旅を乗り切った仲間として、いつも握手で別れるのであるが、今回はいつもより心持ち強く握手をして、バスを降りた私であった。

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