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その輝きは記憶の中に永遠に生き続けるのだ:2013年グジャラートの旅:エピソード編・第12回

         
  • 公開日:2014年1月24日
  • 最終更新日:2022年6月15日

ジュナーガルのバススタンドに来た。
次に行くポルバンダールへのバスの時刻を調べるためである。

結局バスの時間はよくわからなかったが、ここで久々にコイン式の体重計を見かけた。

コイン式体重計は1ルピーや2ルピーのコインを入れて体重を量るものであり、駅やバスターミナルには必ずと言っていいほど設置されている。
大きさは人の背丈ほどもあり、その上部にある機械部分がショーウインドウのようになっていて、そこに色とりどりの電球が仕込まれ、ビカビカと周囲に色光線を放って客を呼び込むのである。はたしてその光りにこれまでどれほどの客が吸い寄せられて来たのかは定かでないが、少なくとも私はその妖しくも美しい電飾の虜となり、三年前にインドを旅した時には各地で体重計に乗りまくるほど入れ込んでしまった。

しかし今目の前にある体重計はすっかりその光を失い、バスターミナルの薄汚れた柱に同化するかのごとく、地味にひっそり佇んでいる。近くに寄ってみると、光りを失ったというのは比喩でもなんでもなく、実際にその体重計は電源を切られており、電光を発しないばかりか体重計としての機能も働いていないようであった。

その時私は、「ああ、やっぱりそうなのか・・・」と思った。

まずニューデリー駅のホームで列車を待っている時、そういえば体重計を見かけなかったなあと、ふと気付いた。
なにしろ今回も行く先々で体重計に乗ろうと思っていたのである。なのであの派手な電飾を見たら条件反射的に体が反応し、気が付けば体重計にコインを入れているということになるはずなのである。実際私はそのために、お釣りでもらった1ルピーや2ルピーのコインを使わずに溜め込み、常にその何枚かをズボンのポケットに忍ばせていたのであるから。

そして翌朝、アーマダバード駅に到着した私が、真っ先に探したのも体重計であった。
この駅では三年前に二度ほど体重計に乗っているので、その設置場所もしっかり覚えている。

しかし体重計はあるはずの場所になかった。

それでもその時の私は、デリーやアーマダバードは大都市なので、混雑する駅の構内に図体の大きな体重計は邪魔なので、ついに撤去されてしまったのだろうと解釈していた。そしてきっと地方に行けばまだまだ体重計は健在であろうと楽観視していたのであった。

ところがジュナーガルという地方都市のバスターミナルでこの惨状である。
これはいよいよインドに於いて、コイン式体重計の一斉追放運動が始まったのかもしれない。

はたしてコイン式体重計はポルバンダールのバスターミナルにも、聖地ドゥワルカのバスターミナルにもなかった。
そして次に私がコイン式体重計を見たのは、ジャムナガルのバスターミナルであった。そこには二台のコイン式体重計があった。
しかしその二台が二台ともまったく稼働しておらず、そればかりかその一台は機械部を守るショーウインドウの丸いガラスがすっかり無くなり、内部がさらけ出されてしまっていた。

これにはさすがに声も出なかった。
確かにかつて元気に光を放っていた時でさえ、それは過去の栄光にすがる時代遅れの虚勢のようなむなしさがあったが、それでもひとたび測定台に乗っかりコインをカチャリと入れれば、0.5kg刻みの数字が並ぶ活版ドラムが健気に動き、体重が刻印された切符状のカードをポトリと落としてくれたのである。

一説ではこのコイン式体重計は、駅やバスターミナルで必要な小銭集めの道具だとのことである。
しかし経済発展目覚ましいインドでは今急速にインフレが進んでおり、もはや1ルピーや2ルピーのコインを集めるために、この大時代的な装置を維持管理して行くのは非経済的にして非効率的であるとの判断から、この一斉撤去が始まったと考えるのが自然であろう。

ちょっと振り向いて見ただけの異邦人が、その国の古き良き時代を懐かしみ、その発展を残念がるのはお門違いだと思う。

なのでここはコイン式体重計が消えて行く現状を嘆くのではなく、ほんの少しではあったが、その最後の時に間に合ったという幸運に感謝すべきなのかもしれない。三年前にインド各地で出会ったコイン式体重計のあの輝きが、今あらためて懐かしく思い出されるのであった。

*ちなみにニューデリーのコンノートプレイス外周の、リーガルシネマ前にはまだ二台のコイン式体重計が存在していた。(2013年11月現在)

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