2001年6月19日:リゾートライフ その2 / コヴァラムビーチ

インドな日々

2001/06/19 リゾートライフ その2 コヴァラムビーチ

私は海の見える高台にいた。
潮風に吹かれながら青い海を眺めていたのだ。
本当に美しい海だ。見事なまでに私の心を映し出している。

その時、またしても一人のインド人が近づいて来た。
もう気配だけで判るのだ。もうインドに来て1ヶ月半近くが経とうとしているのだ。私の妖気アンテナは相当敏感に反応するようになっている。

「ボートに乗らないか?」その男は浪曲師、広沢寅造のような声で言う。

ほーら、来た来た。もうボートとその手には乗らないのだ。
私はだてにコーチンで高い授業料を払ってきたわけではないのだぞ。
百戦錬磨の旅人なのだ!

無視する私を無視して、寅造は続ける。
「小さい舟で水路を行き、村人達の生活を間近に見られるぞ」
さらに「緑の生い茂る中を、手こぎの舟で進むので、鳥や動物もたくさん見られるぞ」
そして私のカメラを見て、「いい写真もたくさん撮れるだろう」と魅力的なことを言う。
しかし私は前回の件で失敗しているのだ。今回は慎重に進めねばならないであろう。

「本当に緑が覆い被さるような場所に行けるのか?鳥とか動物も見られるのか?」と念を押した。

寅造は「もちろんだ!水牛がいるぞ。知ってるか?水牛を」

知ってる、知ってる。水によく入っている黒い牛で、角が真ん中分けの変な髪型みたいなやつだろう。
よーく知ってるぞ!

「鳥はワシがいる。それからキングフィッシャーだ!きれいだぞぉー、キングフィッシャーは」

キ・ン・グ・フィ・ッ・シャ・ア!!

それはカワセミの仲間で、頭部が赤く羽はコバルトブルーをしている。
水辺近くの低い枝から獲物の小魚を狙い、水中に突入して魚を捕る。
その飛翔の瞬間、陽光に羽がキラリと光り、それは本当に宝石のように美しいのだ。
私はコーチンでボートに乗った時に、初めてそれを見た。
写真にも撮ったのだが、その時はボロいながらもエンジン付の舟だったので、近くまで行けなかった。
おそらくその写真を人に見せる時は、つま楊枝で米粒のような鳥を指し示しながら、いかに美しかったかを力説せねばならないだろう。
それが今度は手こぎの舟で近づき、間近でパチリである。
私は日本で人気者になれること間違いなしである。

私は当然乗ることに決めた。もう誰も私を止められない。

舟は近くのヤシの生い茂る広い川から出発した。
この間の舟よりさらにぼろっちい。しかしそれだけに雰囲気が出ている。
これは早くもキングフィッシャー、パチリの予感濃厚である。

舟は船頭が長い竿で川底を漕ぐというものだった。
船頭は巧みに竿を操りながら川に漕ぎ出す。

最初に連れて行かれたのは、浜辺近くの中州のようなところだった。

「ここは川と海が交わるところだ」と船頭は言う。

だから何なのだ?川が海に出るのはあたりまえではないか。
私はキングフィッシャーが見たいのだ。こんな所はもういい。
それになんだか変な匂いがする。
見たらそばに牛の死骸が転がっていた。

舟は再び川に漕ぎ出し、いよいよ緑の覆い被さる水路へ行くと思いきや、元来た方に戻るではないか。
私は船頭に「どうして戻るのだ?あの緑の大地に深く深く入り込んでは行かないのか?」と聞いたのだが、船頭は「あのあたりの小さな水路は全部ふさがれており入ることはできない」と言う。

とにかく舟は元来た川を溯り始めた。

船頭はサービスのつもりか、ヤシが川に覆い被さるように葉を垂らしているところに来ると、わざわざその下に舟を突入させるのである。
ばさばさと顔にあたってわずらわしいだけだ。

行けども行けども川幅は依然として広いままである。

そしてついに、舟は車の往来する「メインブリッジ」のそばでUターンした。
帰るつもりらしい。
2時間の約束なのに、まだ半分しかたっていない。これからは川下に向かって行くので、戻るのに20分もかからないのではないか。

船頭は竿でスピードを落としながら川を下って行く。
おー、うまいものだ。これで時間を調整するのだな。
私は半ばあきらめムードで、ぼーっと川岸を眺めていた。

と、その時である!
キングフィッシャーだ!

その時の私の行動はとても素早くかっこよかった。
後ろを振り向き、船頭に手で「STOP」の合図を送り、カメラを取り上げ狙いを定め、さあ、パチリ・・・・・

あらあら、そのわずかの時間に舟は流され、キングフィッシャーのいた木陰から遠ざかって行くではないか。
目標を見失った私は必死で探し、赤い影を木陰の中に発見した。
船頭にすぐさま、舟を戻すよう指示をしたのだが、船頭は頭を振って「できない」という。
どうやら舟は川岸から離れてしまったために、竿が川底にとどかないらしい。
まったく、さっきまではあんなに巧みに時間調整してたというのに、肝心のときに流されるままだなんて・・・

そのあと船頭は、私の機嫌を取ろうと「あ、あそこにカラスがおります!」とか「あそこのアヒルを写真に撮られたらいかがでしょう」とか言うのだが、逃がした魚は大きく、私はがっくりと肩を落として岸に上がった。

私は今回のインド旅行では、コーチン、トリヴァンドラムという、ケララ州の2都市に一番大きな期待を抱いていたのだが、その両方でみごとに撃沈されてしまった。

そんな私の背中に向かって、ヤシの茂みからワライカワセミが「ケララ・ケララ」と鳴いているようであった。

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