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2001年6月12日:人を怨まば穴ふたつ / バンガロール

         
  • 公開日:2001年6月12日
  • 最終更新日:2022年6月2日

インドな日々

2001/06/12 人を怨まば穴ふたつ バンガロール

私はとうもろこしが大好きである。

以前ポップコーンが大好きと書いたが、これらは同じ血縁関係にあるものたちなので好きになって当然だろう。
ついでに言うと、紙おむつの吸湿層に使われているポリマーも、とうもろこしから作られているので、好きにならなければならないのだろうか?自分でも分からない。

先日街角でとうもろこし屋を見つけた。
インドに来てからとうもろこし屋とは何度か遭遇していたが、今まで食べる機会を逸していたのだ。

そのとうもろこし屋は、蒸し器の上にとうもろこしを並べており、インドで初めて見る形態の店だった。
今まで見たのは炭焼きとうもろこしで、鉄鍋の上に炭を起こして、それで直に焼くものだった。

私はさっそく、それを買って食べた。
それは子供のころに食べた、あの甘くない、懐かしい味だった。
こういうとうもろこしを、永年探し求めていたのだ。
私は今、日本にはびこっている「スイートコーン」とか「ハニーバンタム」とかいう、甘くて実のぱんぱんに詰まったとうもろこしが嫌いだ。ついでだが人間でも美人は嫌いなのだ。

次の日も、ぜひ買おうと同じ道を通ったのだが、その店はなかった。
屋台なので、どんどん移動してしまうのだ。やってるおやじは便利に思うのかもしれないが、買う方は困る。
それからその店とは出会えないままだった。

そして今日、裏道でそのとうもろこし屋を遠くに発見した。
しかし、その時私は行かなければならないところがあったので、後で来るから待ってろよ、と心の中で叫び、その場を後にした。

用事を終えた私は、はやる気持ちを押さえつつ、永年会えなかった恋人に会いに行くように、いそいそと裏道に入って行った。
しかし、移動式屋台の悲しさよ。そこにはすでにとうもろこし屋の姿はなく、その痕跡すら見出すことはできなかったのである。

しかたなく表通りに出たのだが、学校の昼休みなのか大勢の生徒が歩道に出ており、わいわいがやがややっている。
私はこのくらいの年齢の子供が一番苦手で、先日もアラビア海に沈む夕日を眺めていたところ、近くにいた中高生くらいの男子生徒から石を投げられたのである。
石は小石で、別に当たったわけではないが、明らかに至近距離を狙われており、何度も執拗に投げて来たのである。
私には思い当たる点はないのだが、おそらく動物の本能で、優秀そうなオスが自分のテリトリーに近づくのを好ましく思わないのであろう。
大事なメスを取られてしまうからである。無理もない・・・

今回も充分注意を払う必要があろう。
どこの国でも、あのくらいの年齢は無軌道なところがあるものだ。しかしそんなことに、いちいち目くじらを立ててはいけないのだ。こちらがうまく対処してあげることが大事でなのである。
私は全神経を集中し、何が起きても即座に対処できる態勢を完璧に整え、彼らの脇を通り過ぎようとした。

と、その時である。至近距離から何かが飛んできて、私の首に当たった。

いた!・・・・・・よけられなかった・・・

どうも仲間同士でふざけていて、誰かが投げた物を相手がうまくかわしたところに、外人が通りかかり、ぶざまにもその投てき物がその外人に命中してしまったようである。

私は首を押さえて下を見た。

そこには、とうもろこしの芯が落ちていた。

生徒の間からどっと笑いが沸き上がった。

何が可笑しいのだ!

私の首には、とうもろこしについていた塩がたくさん付いてしまったのだぞ!
首でも洗って待っておれとでも言いたいのか!

飛んで来た方を睨んだのだが、誰も謝らない。
しかも相手は、みな同じ制服を着ているので、見分けもつかない。
いつもは冷静な私だが、このような無礼を許しては、土下座外交と言われてしまう。
ここは毅然とした態度で臨み、遺憾の意を表明しなければならないだろう。
そしてもし、相手に少しでも戦意が見られたら、戦闘的自衛権の行使に至り、陸・海・空軍及び消防団の出動を要請し、波動拳、昇龍拳、志村けんなどを繰り出さねばならないだろう。
だっふんだ!

しかし、遺憾の意を伝えるにも言葉が出てこず、ただ小さく「なろぉー」と尻つぼみで唸るのが精一杯であった。
それでも私の迫力が、彼らに与えた衝撃は充分過ぎておつりがくるくらいであったであろう。
下手をするとこれがトラウマになり、以後彼らはとうもろこしの芯を見るたびに、あの日首にとうもろこしの芯が当たって怒っていた、まぬけな外人を思い出して笑うのかもしれない。
くやしい・・・

腹を立てながらその場を立ち去る私の目に、とうもろこし屋が飛び込んで来た。
どうやらとうもろこし屋は、学校の昼休みを当て込んで、校門付近に移動していたらしい。あの飛んで来たとうもろこしの芯も、この店から買ったものだろう。
とうもろこし屋の周りには、生徒達が群がっており、そのうちの何人かが買っていた。
見ると一本をふたつに割ってもらったりしている。
こんなきれいな制服を着た、私立学校の金持ち生徒も、半分しか食べられないのか。
それは、かわいそうね!さっちゃん!ではないか。
私はそんな生徒を尻目に、大きいのを二本も買った。江戸の敵を長崎で討ったような気分である。

ホテルの部屋で、私はそれをむさぼり食った。とてもおいしかった。

すっかり機嫌の良くなった私であったが、こんなに大きいのを二本も食べ、今度はとうもろこしの実が腹に当たったりしないかと、不安になったのである。

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