2001年6月11日:底力 / バンガロール

インドな日々

2001/06/11 底力 バンガロール

産業技術館に行った。

これはインドの持つ技術や科学のことを、人々に分かりやすく紹介するという所で、まあ、日本で言えば北の丸公園にある科学技術館のようなものなのだ。

10ルピーの入館料を払い中に入ると、インドの将来を担う子供たちや、技術系を志す若者たち、そしてただの物見高いおやじなどが、さまざまな展示物を熱心に見ていた。

さすがに外人は私だけで、それでなくとも普段から異才と異臭を放ちまくり目立ってしまう男なので、インド人達が私を意識しているのは痛いほど分かった。
なにしろここは、インドの頭脳を結集したサイエンスゾーンなのだ。そこに技術大国ニッポンからのエリート登場である。彼らが緊張するのは無理もないのだ。
実はここだけの話なのだが、私は文科系の人間で、技術はあまり得意でない。
中学の技術の時間に作ったブリキのチリトリは、左右の縁の高さが違うというファンキーな物だった。
折りたたみ椅子は、一度も人の体重を支えることなくこの世を去った。
インターホンは人の声が聞こえず、がーがーというアヒルの世界からの交信が届いてしまい、翻訳に苦労したものである。
しかし、ここではそんな甘えは許されないのだ。
私はあくまでも技術大国ニッポンから派遣された、エリートエンジニアなのである。
いわばニッポン代表なのだ。ニッポン、ふぃふぃふぃ、なのだ。

しかし、こう注目されると、少し歩き方もぎこちなくなる。
そこへいくと、やはり皇室の方々や黒柳徹子は大したものだ。

とりあえず最初の展示コーナー「エンジン」というところを見に行った。
「エンジン」といえば自動車である。今でこそ落ち目だが、自動車産業は日本を代表する基幹産業と言える。負ける訳にはいかない。ニッポン、ふぃふぃふぃだ!
私は「V型エンジン」のところで腕組みをして、じっと眺めた。
別にこんなもの見たくもなく、できれば向こうのボールが転がって行く展示物を早く見たいのだが、ここを素通りすると、私がエンジンのことを何も知らないと思われてしまう怖れがある。
そこで私は5分ほどかけて、下から覗いたり、反対側に回って見たりして「ふんふん、なるほどね」などとつぶやいてみた。

もうそろそろいいだろう。

その後も「水平エンジン」だとか「直列エンジン」だとか「宇宙猿人」だとかが続き、私はその度にいちいち唸らねばならず、都はるみが一度歌手を辞めたくなった理由がよく分かった。

しかし気が付くと、周りのインド人は私をチラッと見るものの、すぐに展示物の方に目を移し、二度と私を見たりしていないのだ。
そりゃそうだ、みんなだって10ルピーも払っているのだ。私より展示物や実験コーナーの方が面白いに決まっている。私はコメディアンではないのだから。

インド人は技術好きの人種らしい。
普段はあくせくしないのに、実験コーナーの自転車を必死で漕いでいる。いい大人がだ。
揚力実験のコーナーでは、両腕にウレタン製の翼を付けて、風洞室で風に立ち向かっている。
その実験は本来、翼を風に対して平行にし、空気の流れが揚力を生み出すという体験をするものなのだが、彼らはみんな翼の全面で風を受け、筋力トレーニングのマシーンとして使っているようだった。
アイデアマンでもあるようだ。

この他にも、宇宙技術や医療技術なども紹介されており、インドの科学技術の高さを国民及びニッポン代表に知らしめていた。

しかし、インドのすごさは他の先進国に負けないこれらの科学技術だけではなく、エネルギー生産にあった。

その展示物はエネルギーの作り出し方を、ジオラマを使い再現したものなのだが、原子力や火力、水力、風力などと並び「アニマルパワー」と「ヒューマンマッスルパワー」が紹介されていた。

核保有国でありながらも、人間の力を信じ、その国力を支える国民を大事なエネルギーと考える姿勢は、われわれ日本人も見習わなければならないだろう。

がんばれ、ニッポン!

ニッポン、ふぃふぃふぃ!

前のページへ行く目次へ行く次のページへ行く

ページのトップへ戻る