2001年5月17日:親切なインド人 / デリー

インドな日々

2001/05/17 親切なインド人 デリー

とかく都会は他人との関係が希薄になる。
特に東京などはあれだけ大勢人が歩いているのに言葉を掛け合わない。
あの幅広い横断歩道で信号待ちしている時など「いやー、暑いですねー」とか「今朝は胃の調子がどうも・・・」とか「そのネクタイ変ですね」とかお話したっていいんじゃないかと思う。

その点インドはすごいぞ。人と人の関わりが深い。私たちが無くした大切なものを持っている。
それはそれは親切と言うか、おせっかいと言うか、商魂たくましいと言うか、詐欺師と言うか・・・おまえら所詮他人だろ!余計なお世話だ!ほっといてくれ!

昨日私は駅に列車の切符を買いに行った。
もちろんガイドブック2冊を読破している男だ。切符くらい買うのはわけもなかろう。

それでも小心・・・用心深い私は、出掛けにもう一度ガイドブックの「切符の買い方」の項を読み、外国人専用オフィスの全貌写真を網膜に焼き付け、先達たちの失敗談を鼻で笑って駅へと向かった。

駅に着くと予想以上の人だ。
人々のざわめきと熱気に押されて、早くも思考回路がショートしはじめた。

お、落ち着け、私はガイドブック2冊を読破した男だぞ!
昔中国の僧、玄奘(げんじょう)は3つの蔵に収めてある経文を読破して「三蔵法師」と呼ばれるようになったのだ。それなら私だって二冊法師だ!さがれ妖怪ども!

たしか外国人専用オフィスは二階にあると書いてあった。とにかく階段を探せば良いのだ。
見れば駅舎の右手に階段がある。近づいてみると「上だよ」と見知らぬインド人が言った。ありがとう親切な人。
やはりこの上なのだ、と安心し階段を上りはじめた。

上りきった所に別の男が待ち構えていた。
その男は「外国人オフィスは以前はここだった。しかし今はこのエスカレーターを降りたところだ」と言う。

あやしい・・・

だいたいこの男が指差している「外国人オフィスがあった場所」とは、誰がどう見ても階段の踊り場なのだ。まさかインド国鉄の職員がここにござを敷いて切符を商っていたとは思えない。アクセサリー売りとは違うのだ。甘いぞ!インド人!

私はノーと言える日本人になって、もと来た階段を降りた。

とりあえず自分で表示を探そうと、普通の切符売り場に入っていった。
入り口にはでかい男が立っており「ここはインド人専用の売り場だ。外国人用はここではない」と言う。
どうやら間違えてインド人と同じように苦労して切符を買おうとする外国人があとを絶たないのだろう。だから係員を入り口に立たせ注意してくれているんだ。なんて親切なんだ!インド国鉄よ!

ついでにその係員に「外国人専用オフィスはどこですか?」と尋ねた。
すると係員は「ついてこい」と言い、歩きはじめるではないか。

私は親切な係員のおかげで悪い旅行代理店に捕まらずに済むのだ。
なにしろ駅前などには正式なトラベルインフォメーションに混ざって、悪徳旅行代理店が沢山あり、無知な旅行者を連れて行き法外な値段のチケットを買わせるのだ。私は二冊法師だからよく知っているのだ。

着いたところは駅前のタクシー乗り場を横切った先の旅行代理店だった。
駅舎から100メートルくらい離れてしまった。ぜんぜん外国人専用オフィスではないではないか!ばかにするなインド人!

しかし考えてみれば、この二冊法師をまんまと騙し、駅から100メートルも連れて来てしまうなんて敵ながらあっぱれだ。そして私は、その間ぜんぜん気がつかないなんて自分ながら違った意味であっぱれであろう。

お互いの健闘を称え合い、私はもう一度駅舎へ行くため100メートルの道のりを歩き始めた。
インドの太陽はそんな私の頭を、強い日差しでごんごんと叩くのであった。

しっかりしろ!二冊法師!と

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