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2001年5月15日:アジアの純真 / デリー

         
  • 公開日:2001年5月15日
  • 最終更新日:2022年6月2日

インドな日々

2001/05/15 アジアの純真 デリー

人類はみな兄弟である。
しかし日本人にとって本当に親近感あふれ、兄弟のように思えるのはアジア人、特にモンゴロイド系の人であろう。
私にすれば、フランス人なんか異母兄弟か拾われてきた子くらいにしか思えない。

そんなわけで外国で東洋人に出会うとやはり親近感を覚える。

昨日私はコンノートプレイスというデリーの銀座みたいな所を歩いていた。
すると若い東洋人の男が横断地下道の階段を降りて行くのが見えた。
別に後をつけるつもりではなかったのだが、私も同じ方向に行くところだったので少し遅れて階段を降りはじめた。
見ると男のすぐ後ろにぴったりと別の男がついているではないか。
そいつは目つきが悪く、わりと体格のいい男で、右手にミネラルウォーターのペットボトルを持ち、体半分右にずらして東洋人の後を歩いて行く。
若い東洋人は右肩にリュックを背負っているのだが鍵などかけておらず、ちょうどその真後ろに目つきの悪い男の左手がきているのだ。
世界を股にかけている私としては危機管理がしっかりしているので、その目つきの悪い男がリュックから貴重品を盗もうと狙っている事など一目瞭然だった。

男は横断地下道を出て歩道を歩き始めた東洋人につかず離れずしながらも、その邪悪な目にしっかりと獲物を捕らえて放さなかった。
しかし東洋人はまったく気づかず、後ろも見ずに歩いて行く。

次の角で東洋人は右に曲がった。バスターミナルのある方向だ。
男もやはりバスターミナルの方向へ行く。しかも曲がる際に東洋人の視線に入らないよう、十分距離を置いてである。

私は少し迷った。私はまっすぐ行く予定だったからだ。

その間にも、男は東洋人との距離を縮めている。

バスの中でやるつもりだ!

私は意を決して後を追った。
同じ東洋人として注意してあげなければ!と思った。

私が躊躇している間に二人は20メートルほど先に行ってしまっていた。
二人を見失わないようにしながら歩みを早めた。

二人はバスターミナルに停まっているたくさんのバスの間に入っていった。
私も後を追う・・・追いつかずにバスに乗られてしまったら手後れだ!
一生懸命お金を貯め、やっとの思いで旅に出た彼の純真が汚されてしまう!
急げ!急ぐんだ!

何台かのバスを通り過ぎると、売店の前に彼の姿を見つけた。
彼は何か買うつもりか列に並んでいる。

あの男は?・・・・いた!

買う気もないくせに、さりげなく売店の物を見ている。いや!見ている振りをしているのだ!もちろん見ているのは、物ではなく彼、アジアの純真君を見ているのだ!

私は足早に純真君に近づくとむんずと腕をつかみ列から引っ張り出した。
悪党がそばにいては忠告が出来ないからだ。

純真君は急に見知らぬ東洋人があらわれ、せっかく並んでいた列から引きずり出されたのでびっくりしていた。

私はすかさず「私は日本人です」と言い、純真君を安心させようとした。
そして「あなたはどこから来たのですか?」と聞いた。
純真君は「チベット」と答えた。
あー、やはりアジアの純真君だったのだ!

ところが純真君の肩越しに、悪党の男が先程までのするどい目つきとはうって変わった不安そうな目で私を見ているではないか。

まさか!とは思ったが、恐る恐る聞いてみた。
「お、お友達の方ですか?」
純真君は何も言わずにうなずいた・・・

!、わ、私が悪いんじゃないぞ!

言っては何だが・・・そ、その、チベットの人の目が・・・その・・・ちょっと・・・するどくって・・・カ、カッコイイな!わ、私もそんな目になりたいな!

私はふたりに日本人かと思って声を掛けちゃいました。間違いです。すみません。といいわけを言った。

その場からすぐにでも走り出したい気持ちをなんとか押さえ、なるべくどうどうと立ち去ろうとする私の背中は、不信人物をみるような厳しい4つの視線をひしひしと感じたのであった。

しかしこれも私のアジアの純真からしたことなのだ。
だからそんな目で見な・・・・

な、なんだ!許してくれたってバチなどあたるもんでもなかろうに!チベット人!

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