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2006年2月17日:インド出張レポート・その11

         
  • 公開日:2006年2月17日
  • 最終更新日:2022年8月5日

今回のインドの話は、滞在最終日のくだりになってから、急にその進度が遅くなり、もしかしたら「まったくう、カメの歩みのようにのろいな」などという陰口をたたかれているかもしれません。
しかし、カメの歩みというものは案外それほど遅いものではありません。
その証拠に、「アキレスはカメに追いつけない」というお話があります。

アキレスというのはギリシャ神話に出てくる英雄で、不死身の体であったのですが、実は一箇所急所があり、それが「アキレス腱」だったのです。
でも、アキレス腱は「アキレスの急所」ゆえにそういう名前が付いたわけですから、当時アキレス自身のその部分は「アキレス腱」とは言わなかったと思うのであります。
もしその当時からアキレスのその部分を「アキレス腱」と呼んでいたとしたら、他の人のその部分は、また別の呼び方をしていたことでしょう。たとえば「ホメロス腱」とか「松平腱」とかです。
その点同じ急所を指す言葉でも、「弁慶の泣き所」というのは「むこうずね」という立派な正式名称を持っていますのでえらいです。

あー、なんだか話が本題からそれているような気がする・・・

えーと、

で、アキレスというのはとても足が速かったのです。
それでそのお話の「速い方の代表」としてアキレスが選ばれ、「遅い方の代表」としてカメが選ばれたわけです。

そのお話というのは、俊足のアキレスが鈍足のカメと競争しても勝てないという、とても不思議なお話なのですが、両者を競争させるに際しては、ハンデとしてカメをアキレスより先の位置からスタートさせます。
たとえばカメはアキレスの100m前方でスタートしたとします。
やがてアキレスはカメのいた位置、つまりは自分のスタート地点より100m先に到達します。
ところがその時カメはすでにそこから前方に進んでいます。
そしてまたアキレスがそのカメのいた位置に到達すると、カメはもっと先に進んでいるわけです。
そしてまたまたアキレスがカメのいた位置に到達すると、カメはさらに移動していてもうそこにはいないわけです。
こんな風に「アキレスがカメの位置に到達」、「その時カメはさらに前方にいる」ということを繰り返していきますと、いつまでたってもアキレスはカメに追いつけないという理屈になるのです。

どうです、カメの歩みは案外速いでしょう。

まあこのお話はいわゆる「詭弁」というもので、アキレスがカメに追いつくまでの過程を延々と切り刻んでいるだけなわけです。

というわけで、私も日本に帰りつくまでの話を延々と切り刻み、そしてまたこのような余計な話を織り交ぜながら、行を埋めて行くのであります。

助手席から相棒の降りてしまったタクシーは、もう小遣い稼ぎを諦めたという感じで先を急いで走り始めました。
そしてもうそのあたりの風景は、ちゃんと目的地へ向かう時のそれであり、後部座席の私はようやく「生きて帰れる」ということを確信したのであります。

ホテルに到着したのは、すでに午後9時を回っておりました。
タクシーはホテルの近くまで順調に来たものの、なかなか目的のホテルにたどり着けず、何度も同じような場所をぐるぐる周り、いろんな人に聞きまくってやっとの思いでたどり着いたのです。
なにしろそこは私も初めてのホテルであり、しかも最近オープンしたばかりのホテルでしたので、まだあまり世間に認知されていなかったわけです。
途中運転手は、適当なところで私を降ろしてしまおうと思っていたようですが、もうここまで来たらこっちのもんです。ここら辺の土地勘は私の方がありそうですし、それに屈強そうなガタイのでかいお前の相棒はもういないんだよおーっだ!へへーんだ!さあさあ、早くホテルまで連れてってちょーだいな。さあ、早く!

とまあ、そんなわけで恐怖のプリペイドタクシーからも無事開放され、私はホテルの明るいロビーで心底安堵したのでありました。

ロビーにはすでに旅行エージェントの男が待っており、その場で宿泊費用全額を日本円で払い、明朝の迎えの車の手配を頼みました。

さあ、あとは早くシャワーを浴びてビールを飲まなきゃ。
なにしろ明日は4時半にはここを出なければならないのです。

さっそくシャワーを浴びさっぱりしたのですが、着替えの服がありません。
着替えの服は全部スーツケースに入れ、すでに機内預けとなっていたのです。
まさかもう一泊するとは思いませんでしたので、着替えの服は着ないので、機内預けにしたというシャレなのです。

まあインドとはいえ真夏と違いますので、一日着た服でも問題ないでしょう。
下着だって表に出るわけではないですし、そんなに気にすることはありません。
ただ、肌に直接触れる衣類で、しかも外にむき出しになるという、そのふたつの条件を満たしている靴下だけはなんとかしたいものです。
なにしろ私は飛行機に乗ると必ず靴を脱ぐのです。そして片足をもう一方の足のひざに乗せ、つま先を伸ばしてぐるぐる回したりするのです。
その光景はなかなか優雅なのですが、それも無臭ならではのことです。

そこで靴下だけでも洗濯しようかと思い、バスルームを確認しました。

ホテルでの洗濯で重要なことは、ちゃんと短時間で乾くかどうかです。
そしてその決め手となるのは、空気の循環を促進するための、天井扇と換気扇なのです。

はたしてそのホテルのバスルームには、その両方が設置されていて、しかも新品ですのでなかなか強力に動くようです。
天井扇は、インドではポピュラーな天井設置型の三枚プロペラの扇風機なのですが、部屋の天井にはついていても、バスルームにまでついていることは少ないのです。
しかし、ここにはその両方がそろっています。これは洗濯するしかないでしょう。

洗面台で靴下を洗い、シャワーカーテンのレールにひっかけ、ファンのスイッチをオンにします。
ふたつの強力なファンが回転を始めると、たちまちものすごい空気の流れが発生し、部屋との境にあるドアの隙間からも風を呼び込みひゅーひゅーと音をたて、吊るされた靴下はゆらゆらとゆれ出しました。

おおっ、これなら明日の朝4時までにはきっと乾くぞ。

そう確信しながら、シャワーを浴びる前と同じ服を着て、満足そうにビールを飲む私でした。

その晩、忠実なるファンの連合軍は靴下を乾かさんとフル稼働し、人工的なすきま風の音は、下着だけで寝る私を凍死させるかのごとき勢いで部屋中に鳴り響いていたのでございました。

さあ、いよいよ私のインド滞在もあと少し!

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