2003年9月4日:インドの店舗は奥深い

わたくし的インド案内

2003/09/04 インドの店舗は奥深い

インドの小さな店舗はたいてい間口が狭く、その分奥が深い作りになっています。
さらに店舗の天井裏は重要な倉庫スペースと位置づけられていて、常に頭上には大量の在庫が眠っているのです。

たとえば布屋さんに入るとします。
狭いお店のスペースには棚がぎっしりと並び、商品がたくさん納めてあります。
初めは棚の商品を引っ張り出してもらいあれこれ選んで行くことになるのですが、店のおやじはお客が選び出した商品群から素早くお客の趣味を把握し、店の小僧(といっても痩せこけたおじさんの場合が多いのですが)に指示を出します。

「上から商品を持って来い!」

小僧は急な梯子段を上り、天井にあいた狭い狭い穴から天井裏に入ります。
そして下からの店のおやじの怒声に近い指示に従い、商品を選んでは下に落とすのです。
見当はずれな商品を落とそうものなら、さらに激しい怒声が天井裏に向けて発せられます。

おそらくその天井裏はとても狭く、埃っぽく、なにより蒸し暑いことでしょう。
さらに追い討ちをかけるような怒声の応酬です。これほど劣悪な職場は日本ではもう見られないかもしれません。

でもお店の小僧さんも大変かもしれませんが、彼が商品を探して右往左往するたびに、ギシギシと音をさせる天井の下で買い物をするお客だって大変なのです。
特に布はそれ自体が重いですし、そこにさらに「小僧」と呼ばれ痩せこけているとはいえ、一人の人間が乗るのですから、天井が抜けやしないか心配にもなります。

もうひとつ布屋さんの話です。

その布屋さんは色とりどりの生地を商っていました。
それこそどんな色の生地でもあるのではないかと言うくらいの品揃えです。

実はその店はサリー用のブラウスやペチコートを作ってくれるお店なのです。

通常サリーは幅広の長い一枚布ですので、下には必ずブラウスとペチコートを着用します。
ですからサリー(の布)を買った人は、そのサリーの色に合わせて生地を選び、ブラウスやペチコートを仕立ててもらうことになるのです。

その店は間口がちょっと広めの店でしたので、店内の左右と奥にカウンターがあり(つまり「コ」の字形です)、それぞれの場所を担当する店員が色とりどりの生地を配した棚を背にして立っていました。

年配の店員にサリーの生地を渡すと、色の選択が始まりました。
片手にサリーを持ち、もう片方の手で似た色の生地を棚から取っては比べて行きます。
棚にも相当数の色が並んでいるのですが、どうもその店員は年配だけに職人気質らしく、微妙な色の差が気に入らないようです。しかし彼の背後の棚にはもう新たに選ぶだけの在庫がありません。

そこで彼はどうしたでしょうか・・・

その職人気質のじいさん店員は、一番近い色の布を丸めると天井めがけて投げつけたのです。
色合わせがうまく行かず、気でもふれたのでしょうか?

するとどうでしょう・・・

不思議なことに落ちて来た布は、先ほどとはちょっと色が変わっているではありませんか。
このじいさんはかつてインド大魔術団にでもいたことがあるのでしょうか?
それともこの店の天井は、布の色を微妙に変える性質をもっているのでしょうか?

そこで私もひとつ試してみようと、自分の持っていたタオルを丸め天井目掛けて「えいやっ!」とばかり投げつけようと上を見上げました。

そしたらどうでしょう・・・天井には大きな穴があいていました。

つまりその店は中二階が「ロ」の字形になっていて、そこにも色とりどりの布が詰め込まれた棚がぐるりと一周設置され、何人かの小僧がスタンバイしていたのです。
結局魔法でもなんでもなく、下から投げ上げられた布を小僧がキャッチし、少し違う色の布を投げ返していただけだったのです。な~んだ・・・

そうしてあらためて店内を見回してみますと、他のお客が持ち込んだサリーの色合わせがそこここで行われており、フロアーと中二階を色とりどりの布が飛び交っていました。

上から下へ、下から上へとめまぐるしく行き来する布たちは、まるでかつてNASAが描いた宇宙開発の未来図、地球と宇宙空間を活発に行き来するスペース・シャトルのようでした。
インドではこんな小さな店でも、NASAと肩を並べるくらいの技を持っているのです。

おお!これぞインドの底力!
人力と原子力が同居する国!
オートリキシャの分解組立てと宇宙開発が同時進行する国!
親切なのか騙そうとしているのか判りづらい国!
トイレがあるのにその脇でうんこしてしまう国!
と、とにかくインドはすごいのだ!

ちょっと興奮してしまいましたが、考えてみたら「スペース・シャトル」の「シャトル」というのは、もともと機織の横糸を通す道具のことだったのです。
その機織りのシャトルが右から左に、そして左から右へと行き来するさまから、同じ経路を往復する乗り物が「シャトル便」と呼ばれるようになたというわけです。

シャトルで織られた布たちは、こうしてこの店内で再び「シャトル」と化し、今日も空を飛び交っているのです。

う~ん、インドっていうのはお店同様奥が深いです。

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