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チャイ屋で考えさせられたこと:物乞いとの付き合い方

         
  • 公開日:2012年4月27日
  • 最終更新日:2023年3月11日

ここはそれほど小奇麗ではない半露店のチャイ屋なのだが、こうして皿付のカップでチャイを出してくれる。場所はアーマダバードの繁華街、ティーンダルワーザにほど近い場所である。で、こうした店が皿付のカップを使用する場合、往々にして皿にあふれるようにしてチャイを注ぐ。それはおそらくサービスなのだと思うが、受け取った客は皿にあふれたチャイから先にすすったりしている。日本でも大衆酒場のコップ酒で似たような注ぎ方をするが、あれと同じことなのだろう。

またインド人は猫舌が多いのか、わざわざカップのチャイを皿に移し、冷ましながら飲んでいる人もいる。

そんな皿にあふれたチャイに関して、私はちょっと複雑な思いをしたことがある。

私がチャイ屋の店先に腰を下ろし、店のおやじから皿までチャイに満たされたカップを受け取ったその時、ひとりの少女が私に近づいて来た。
少女は一目で物乞い(もしくは限りなくそれに近い人)とわかる風体をしていた。つまり髪はばさばさで皮膚は黒く汚れ、着た切りらしき服もかなりくたびれているといったものだ。
正直私はちょっと困ったなと思った。これが道を歩いているときなら、無視するなりポケットの小銭を手渡して足早に立ち去るということもできるが、私はたった今チャイを受け取り、これからそれをゆっくり飲むところだったからである。
それに半露店とはいえここはチャイ屋である。周りには何人ものインド人が私と同じようにベンチに腰掛け、チャイを楽しんでいるのである。こんなところでもしその少女に「不適切なあしらい方」をしてしまったら、その少女が退散しても周りのインド人たちの視線を気にして、私はここで長くくつろぐことはできないであろう。さらに困ったことにその少女は知能に障害があるらしく、しっかりと話すことができないのだ。もっとも少女がしっかり話したところで、現地語では私の方がわからないので同じことなのだが・・・

とにかく聞き取れない言葉をもごもご言いながら私の前に立ち続ける少女に、いったい私は何をしたらいいのだろうと困っていると、少女が弱弱しく片手を動かし、私の持つカップを指差した。

なるほど、この少女はお金ではなく、チャイが飲みたいのだ。

しかしそれがわかってもその先がわからない。このチャイのカップをそのまま渡すか?それとも店のおやじに「この少女にも一杯やってくんな!」とでもいうか? どちらにしてもチャイの料金などたいしたことはないから、そうするのは簡単である。
でも周りのインド人ならそんなことをするだろうか・・・

そこで思い付いたのが、チャイが満たされた皿だけ渡すことだった。
これなら私も少女もチャイが飲める。

私がカップの下から皿をそっと外し少女に差し出すと、少女は素直にそれを受取り、おいしそうに飲み始めた。

はたしてこれが正解だったかどうかはわからない。でも私はこれでよかったと思った。少なくとも周りのインド人たちの視線は気にならなかった。だからたぶんよかったのだと思う。

さて、この一件で私が複雑な思いをしたというのは、別に少女が皿にこぼれたチャイを飲んで私がカップのものを飲んだからというようなものではない。
その自分なりの「正解」にたどり着くまでに、もっと簡単な方法、つまりお金を渡して追い払ってしまおうかと一瞬でも思ったことである。

インドに行くと日本人は金持ちの部類に入る。少なくとも小金持ちである。
でまあ、ついついお金(といっても日本円にしたら十円単位のものだが)で済まそうとするケースが出て来てしまうのだ。
しかしそれが相手に対してとても失礼にあたることも多々ある。私もそんな経験をして、心から恥じ入ったことが何べんあったことだろう。

今回のチャイのケースではなんとか恥じ入らずに済んだようだが、それは紙一重のものであって常にベストな選択ができるわけではない。つい「お金で」と思ってしまうところがあるのだ。そこが我ながら情けなく思うところである。

そんな恥ずかしい経験談は、また追々ご披露させて頂こうと思う。
冗談でなく、本当に恥ずかしく思う事ばかりなのだが・・・