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2016年グジャラート再訪・第31回 / まさしく寝耳に水だった・インドのキャッシュクライシス

         
  • 公開日:2017年11月14日
  • 最終更新日:2022年5月21日

この旅にはタブレット端末を持って来ていた。

これまで旅に持って行く文明の利器と言えば、インドの携帯電話とデジタルカメラくらいだったのだが、今回は安いタブレット(6千円ちょうど!)を携行した。

まあスマホではないので通信はWi-Fi利用となりもっぱら宿での使用となるが、それでも一昔前みたいなネットカフェ(インドではサイバーカフェと言ったが)通いをしなくてもいいので大変便利である。
さらにデータ版(PDF)のロンリープラネットも突っ込んで来たので、次に行く町の情報や交通機関の情報を知るのにとても役に立った。

インドのガイドブックを入れたタブレット端末

宿の部屋に居ながらにしてのメールチェックや情報収集、それに重いガイドブックを持ち歩かなくて済むので本当に助かる。

そんなタブレットがこの旅で一番役に立ったのは、なんと言っても11月9日(2016年)の未明のことだった。

その日はジュナーガルを早朝のバスで発つ予定だったので、5時に目を覚ましメールのチェックをしたところ、インドで突然高額紙幣の使用中止が発表されたとのニュースが飛び込んで来た。
それは日本からの連絡であったが、のちに日本大使館からも以下の文面の連絡を受け取った。

【以下、在留邦人および「たびレジ」(旅行者への情報配信サービス)登録者へのメール】

新紙幣発行に係る情報について(お知らせ)

2016年11月9日
在インド日本国大使館

 8日夜、モディ首相は国民への演説を行い、500ルピー紙幣及び1,000ルピー紙幣の無効化並びに新500ルピー紙幣及び2,000ルピー紙幣の導入を発表しました。インド財務省が発出した通達やインド準備銀行(RBI)が発表したFAQ(Frequently Asked Questions)等の政府発表資料によると、概要は以下1~3のとおりです。

1 現行紙幣等の取扱い
(1)現行の500ルピー紙幣及び1,000ルピー紙幣(以下、「旧高額紙幣」と言います)は、11月8日24時(9日午前0時)以降、法定通貨としての効力を失っており、使用できません。但し、以下の支払いにおいては、11月11日までの間、引き続き使用可能です。
ア 政府系病院での治療費用の支払いや、医師の処方箋を示して政府系病院の薬局で医薬品を購入する際の支払い
イ 鉄道、政府又は国営企業(が経営する)バス、空港のチケットカウンターでチケットを購入する際の支払い
ウ 中央政府又は州政府の認可の下で運営する消費者共同組合店舗(consumer cooperative stores)での支払い
エ 中央政府又は州政府の認可の下で運営する牛乳販売店での支払い
オ 国営石油販売企業の認可の下で運営するガソリンスタンドで石油・ディーゼル・ガスを購入する際の支払い
カ 火葬場や墓所での支払い
キ 5,000ルピーを超えない旧高額紙幣を有する国際線の乗客が、国際線空港で両替をする場合
ク 外国人旅行者が5,000ルピーを超えない旧高額紙幣等を空港で両替する場合
(2)100ルピー紙幣以下の小額紙幣は引き続き使用可能です。
(3)クレジットカードやデビットカード、小切手での支払いは引き続き可能です。

2 本9日の銀行の営業
 銀行は、本日営業しておりません。ATMについては、本日及び明10日閉鎖しております。

3 新紙幣との交換等
(1)旧高額紙幣は、2016年12月30日までの間、銀行支店等にて銀行に預金する、又は新紙幣を含む使用可能な紙幣と交換することができます。
(2)交換の上限は4,000ルピーですが、この上限は15日後に見直されることとされています。
(3)預金の上限はありません。(但し、KYC(Know Your Customer)規則に従っていない口座については上限50,000ルピーとされています。)
(4)11月24日までの間、銀行窓口での現金引出しの上限は1日10,000ルピー、1週間の上限は20,000ルピーとされています。11月24日以降、上限については見直すこととされています。ATMでの現金引出しは11月18日までは上限カード1枚当たり1日2,000ルピー、11月19日以降はカード1枚当たり1日4,000ルピーとされています。

【以上】

ちょっと長い文面だが、要は500ルピー札と1000ルピー札が突然使用できなくなったということである。

インドの旧高額紙幣

これはすでに通貨ではなくただの紙なので「見本」などのかぶせ文字は必要ないのだ。

モディ首相の演説は8日夜8時に行われ、実施が翌午前0時からとのことで、まさに寝込みを襲う奇襲作戦であり、寝耳に水の強硬策であった。

この施策の一番の狙いはブラックマネーの根絶ということにあったようだが、そんなことはこの時点ではもちろんわからない。

インドの高額紙幣廃止の看板

この時点(2016年11月8日)で500ルピー札と1000ルピー札のインド国内での流通量は全紙幣の86%も占めていたのだ。

まったくインド政府は何を考えているのだ。
そもそも通貨、特に紙幣などというものは、盤石な国家が責任を持って保証して初めて「紙」が「金」として流通するものなので、こんなに簡単に「紙」に戻されてしまってはたまらない。いったい何を信用したらいいのかわからなくなってしまう。

まあ政府批判はひとまず置いといて、現実問題として高額紙幣が使えないとしたら、現時点での持ち金はどれほどなのだろうかと、ベッドの上に財布の中身を並べてみた。

すると、

100ルピー札が12枚
50ルピー札が3枚
20ルピー札が3枚
10ルピー札が11枚

つまり合計でも1,520ルピー(約2400円)しかない。
あとはコインがいくらかと、500ルピー札が60枚(約48,000円)である。

夕べまでは日本円で5万円も持っているお金持ちだったのに、目が覚めたら2,400円しか持ってないことになろうとは、世の中何が起こるかわからないものである。

予定ではまだ一週間以上グジャラートを回るつもりである。宿泊費はクレジットカードの使えるホテルにするとしても、一日350円足らずの予算ではちと厳しい。だいたい移動ができないではないか。

でももしかするとそこはインドのことである。こんな急な通貨規制を厳正に施行に移せるとは到底思えない。きっとなんとなくこのままずるずると使用可能状態が続くのではないかと私は踏んだ。

とにかく使えるだけ500ルピー札を使ってしまおうと、少し早めに宿をチェックアウトすることにした。

インド、ジュナーガルのホテルハーモニーのフロント

さすがにバスターミナル近くのホテルである。早朝にもかかわらず従業員が二人も待機していた。

宿代2,656ルピーに対して、何食わぬ顔でフロントの従業員に500ルピー札6枚を差し出してみた。
すると従業員は「釣りが無い」と言う。しかしこれはいつものことであり、少なくとも500ルピー札の受け取りを拒否しているわけではない。従業員があのニュースをまだ知らないのか、それとも私と同じようにまさか即日厳正施行にはならないだろうと思っているのかは知らないが、とにかくここでは使えそうである。
そこで私は事前に小額紙幣を抜き取っておいた財布を見せ、こちらもそれしか無いんだと譲らない。
従業員はしばらく引き出しの中をごそごそ探していたが、やがてあきらめて自分の財布から釣り銭の小額紙幣を出して渡してくれた。

まるでババ抜きのようだが悪く思うなよ、こちらも必死なのである。

この通貨危機の話はこの後もたびたび出て来ることになるが、ちょっと先回りしてデリー帰着後の状況を言えば、廃止された高額紙幣に代わる新紙幣の供給はまったくと言っていいほど追いついておらず、旅行者向けの両替所などもシャッターを閉ざしたまま営業をしておらず、一般庶民だけでなく外国人旅行者も大いに困っていたのであった。

インド、ニューデリーの両替屋

商売道具がないのではどうしようもないのだ。

*情報はすべて2016年11月時点のものです。

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インド先住民族の工芸品ドクラ