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金曜日の賑わい:アーマダバード

         
  • 公開日:2010年7月30日
  • 最終更新日:2022年6月3日

アーマダバード旧市街の路地を歩き回っていると、ふいに目の前に大きな門が表れました。

なんだろうと思いながら中を覗くと、石敷きの広い中庭とその先に立派な建物が見えます。
ようやくそこで「もしやこれはジャマー・マスジットでは」と思い至り、近くにいた人に確認すると「そうだ」との答えが返って来ました。

おお、これがアーマダバードで一番大きなモスクなのか。なんの予備知識もなく突然目の前に現れた古いモスクとの出会いは、実に感動的でありました。

この日は金曜日で、時刻は午後1時半を回ったところでしたが、入口近くに突っ立っている私の脇をすり抜けて後から後から人が中に入って行きます。
なるほど、これから金曜礼拝が始まるようです。入口にいた人が「お前も中へ入れ」と言うので、裸足になって門をくぐりました。

人々はまず中庭の中央にある四角い建物を目指します。

四角い建物の中には、満々と水をたたえた大きな水槽があり、それをぐるりと取り囲むように溝が掘られ、さらにその周りに等間隔に石造りの椅子が据え付けられていました。

信者はここで手足を洗い口を漱ぎ、身を清めてから本堂に向かうのです。その光景はまるで温泉の大浴場といった感じでしたが、ここは神聖なるモスクですから、そういうおちゃらけたことは言ってはいけないのです。

身を清めた信者たちは、真っすぐに敷かれた細長いカーペットの上を一列になって本堂へと進みます。これはそういう決まりになっているのか、それともカーペットが敷かれていないところは太陽の熱で石が熱くなっていて歩けないからなのかはわかりませんが、とにかく一列になって無言で歩いて来る信者たちを見ていると、まるでそれ自体が巡礼のようにも思え、実におごそかな気持ちになるのであります。

このモスクは1424年に当時の支配者であったアフマド・シャーによって建てられました。
建造にあたってはヒンドゥー教やジャイナ教の寺院を破壊して建材にあてたとのことなのですが、私には見てもどれがどれだかわかりません。ちなみにこのモスクにはかつて二本の「揺れる塔」が建っていたとのことです。
揺れる塔と言えばシディ・バシール・モスクが有名ですが、ジャマー・マスジットのそれは二度にわたる大地震で倒壊してしまったとのことなので、どうやらこちらはあまり耐震構造が効果を発揮しなかったようです。

さて、先ほどからスピーカーでは聖職者の説教が大音量で流されているのですが、本堂を覗くとその一番奥にその本人らしき人がマイクに向かって話をしていました。いやあ、私はてっきりテープかなにかで声を流しているのかと思っておりましたが、ライブ音声だったんですねえ。

そうこうしているうちにも信者たちで本堂の床は埋まり始め、聖職者の説教は益々熱を帯びて参りました。
私は異教徒ですので床に座らず入口付近におとなしく立っていたのですが、見ればみな頭をバンダナなどで隠しているではありませんか。そこで私もポケットから日本手ぬぐいを出して頭にかぶりました。とにかく私はあの「アッラー、アクバル!」と叫びながら行う一斉礼拝を見たかったので、信者のみなさんを刺激しないように心して振舞っていたのですが、本堂に来る信者来る信者が礼拝の前に私の顔をギロリと見るのがなかなか怖くて、私は少しづつ本堂の正面から横へ移動をせざるを得ませんでした。

そして次第にボルテージの上がって来た聖職者の説教が、ついには興奮の域にまで達すると、それはまるでアジ演説の様相を呈し始め、私の耳には「アラーは偉大なり!イスラムは最高なり!あそこにいる異教徒に制裁を!」と言ってるかのように聞こえてしまい、ついに私は本堂から後ずさりするように脇の回廊へと身を隠しに行きました。さらに私はゆっくりと回廊を進み、ちょうど本堂の反対側まで来たところでようやく一息つき、そこからまだ始らぬ一斉礼拝の時を待ちました。
するとひとりの老人が私に近づいて来て「どこから来た?」と聞くのです。私が「日本から来た」と答えると、そうかそうかと満足そうにうなずき、日本の有名企業の名前をいくつか挙げ始めました。そこで私もまだ老人の口にしていない有名企業をいくつか挙げると、老人はまた満足そうにうなずき、「日本の製品は優秀だな。このモスクにも日本製の監視カメラが設置されているのだ。ほらあそこと、あそこと、あそこ・・・」などと言いながらわざわざ指をさしてその場所を教えてくれるのですが、そんなセキュリティー上の重要事項を外国人の私に教えてしまってよいのでしょうか。もしかして私がテロリストだったらどうするのでしょう。老人はまだ私と話をしたそうにしていましたが、私は緊張と暑さからちょっと疲れてしまい、適当にごまかしながらその場からゆっくりと立ち去り出口に向かいました。

その時になってようやく背後から「アッラー、アクバル!」という叫び声が聞こえて来たのですが、私はいまさら引き返す気にもなれず、そのまま門を出たのでありました。

最後に少し付けくわえておきますが、文中「信者のみなさんが怖い」というようなことを書きましたが、ここで出会った人たちはみな親切な人ばかりでした。
また私は決してテロリストなどではなく、老人から聞いた監視カメラの個数や設置場所も一切公開しませんので、くれぐれも私に制裁を与えるようなことのなきよう、関係各位にお願い申し上げる次第であります。

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