いよいよ旅は終わりを告げたのだった:ライプールからアラハバードへ

止まない雨はないのと同じように、いつまでも続く悪路もない。カーライル(うそ)

ということで、やがて道は幹線道路にふさわしい路面状態を取り戻し、バスもまた元のペースを取り戻しました。

インド・ライプール発アラハバード行長距離バスこのバスに限らずインドの長距離バスは、途中でよくチョイ乗り客を拾います。それが正式なバス会社の収入になるのか、それとも運行乗務員で山分けにするのかはよくわかりませんが、とにかく気がつけば車内はこんな具合に込み合っていて、とてもこれが600kmの道のりを走って来たバスとは思えません。
しかも先ほどの休憩のときなど、私が外で顔を洗って車内に戻ると、太ったおばさんが私の席に座っていてどいてくれないのです。私がシートナンバーの記入されたチケットを見せると、しぶしぶ重い尻、いえ、腰を上げて移動してくれましたが、見れば寝台席の乗客などはスペースを空けてチョイ乗り客を座らせてあげたりしています。インド人はこういうところが実にエライのですが、かといって私の椅子席じゃ、いくら横に寄ってもあのおばさんは座れないよなあ・・・

アラハバードの到着予定時刻は11時と聞いておりましたが、まさしくその11時が近づいた頃、バスは大きな河に差し掛かりました。

インド・ライプール発アラハバード行長距離バス実はアラハバードはガンジス河とヤムナー河が合流するところで、さらにヒンドゥー教の神話では、目に見えないサラスワーティー河もここで合流するとされる聖地なのです。

しかしアラハバードに関する私の知識はそこまでで、頼みの綱のガイドブックも、Mくん持参の黄色いものには一行の記載もなく、私の持ってる青いものは、そのあまりの厚みに恐れおののき、日本で必要な部分だけを破り取って持って来ているために、アラハバードの部分は手元に存在しないのです。

でもまあ聖地なんだから大きな街なのだろうと想像していたのですが、橋を渡る時にその両側を素早く観察したところ、どうもヴァラナシみたいに河岸に貼り付くようにして建ち並ぶ建物群が見当たらないのです。

そこで私は、「これはいっちょこのままヴァラナシまで移動してしまった方が良いのでは・・・」と思ったのです。

なにしろ時刻はまだ午前11時なのです。
長旅の疲れはピークに達してはいましたが、だからこそなおさら、ここで宿を探してまた翌日移動するより、もうちょっとがんばって一気にヴァラナシまで行ってゆっくりした方がいいのではないかと思ったのです。

そこで車掌のおっさんに、「ヴァラナシに行きたいのだが、どこで降りるのが一番良いのか?」ということを聞いたところ、その場所に着いたら教えるからちょっと待っておれ、とのことでした。

やがてバスは橋を渡り切り、左に折れてアラハバードの街らしきところに入りました。

するとそれまでじっと前方を注視していた車掌が、急にわれわれに向かって「ここで降りろ!」と叫ぶのです。

えっ!ずいぶん急じゃない!もう少し早めに言ってくれりゃあいいのにさあ・・・

慌てて座席の下から荷物を引っ張り出し、人をかき分けて前方の出入り口にたどり着くと、車掌は私の荷物を乱暴にふんだくり、外にいたあんちゃんに渡しました。

ああっ、私の荷物をどこへ持っていくんだよお!

わけのわからぬまま、私の荷物を奪い去って行くあんちゃんの後を追って道を渡ると、そこには違うバスが止まっており、あんちゃんに導かれるまま荷物とともにそのバスへと乗り込んだのでした。
その間わずか30秒、移動距離10mほどのとても短いアラハバード滞在でした。

インド・アラハバードからヴァラナシをバスで目指すで、気が付けばこうしてそのバスに揺られ、ヴァラナシ目指して走っていたというわけなのですが、どうやら車掌のおっさんはすれ違うバスの中からヴァラナシ行を見つけ出し、わざわざそれを止めてわれわれを引き渡してくれたようなのです。

それなのに、いくら慌ただしかったからといってお礼の言葉ひとつ言えなかったことは実に残念でした。

ありがとう!車掌のおっさん!

さあ、あとはこのままヴァラナシへ直行だ!

と思ったら、このバスもやたらあちこちに止まっては客引きをし、場所によってはしばらく止まったまま客待ちしたりすることもあり、なかなかヴァラナシに着かないのです。

インド・アラハバードからヴァラナシをバスで目指すしかもどうしたことか、2時間ほど走ったところでまた別のバスに乗り換えさせられたのです。
それまでよく整備された道を、いかにも「ヴァラナシに向かってます」みたいな顔して走ってたくせに、急にU-ターンすると道の反対側に止まっていた小さめのバスを指差し、「あれに乗り換えだ」というのです。

乗り換えって言ってもさあ、あのバス反対方向に向かおうとしてるんだけど・・・

もう不信感でいっぱいです。

今度のバスの車掌はちょっと悪そうな感じの若いあんちゃんでした。

インド・アラハバードからヴァラナシをバスで目指す人の乗りそうなポイントに近づくと、あんちゃん車掌は開け放したドアから身を乗り出して「おらおらおらあ~!」と叫びます。どうやらそれは「ヴァラナシヴァラナシヴァラナシ~!(もしくはワラナーシィー)」と行先を連呼しているらしいのですが、私にはどうしてもそれが客を引くセリフには聞こえず、逆に人を蹴散らしているようにしか思えませんでした。それほどそのあんちゃんがワルそうに見えたのです。

そんな風にしてまた2時間ほど走り、ついにバスはヴァラナシ・ジャンクション駅近くに到着しました。

バスを降りるとあんちゃん車掌が、「これからどこへ行くんだ?」と聞いて来ました。
私が「ガートだ」と答えると、あんちゃん車掌は近くにいたサイクルリキシャのおやじに行先を告げ、料金交渉までしてくれました。

インド・アラハバードからヴァラナシをバスで目指すわれわれはあんちゃん車掌に促されるままにサイクルリキシャに飛び乗ると、またもやお礼もそこそこにガート目指して走り去って行ったのでありました。

おしまい。

前のページへ行く目次へ行く次のページへ行く

シンプルデザインの真鍮製シンギングボウル

寒さにも負けずシブキにも負けずホコリにだって負けないのだ:ライプールからアラハバードへ

山道に入れば気温は下がるだろうとの私の期待は裏切られました。

バスはかなり山を登ったはずなのに気温はほとんど下がらず、さすがに熱風ではないまでも窓から入る風は生ぬるく、決して気持ちのいいものではありませんでした。

ところが逆に山を下って平地に下りたあたりで急に気温が下がりました。
ヘッドライトが脇にこぼすわずかな光を頼りに目を凝らしてあたりを見れば、どうやらこの辺は大きな池があり水が豊富な土地のようです。
そのために気温が下がったのかと納得し、しばし窓から吹き込むエアコン並みの冷風を楽しんでいたのですが、その後いくら走っても気温が上がらず、しまいには寒くてガタガタ震えるほどになってしまいました。
まさか真夏のインドをエアコンの付いていないバスで旅するのに、寒さに震えるとは思ってもいませんでしたので、私はTシャツ一枚の姿で上着はバッグの底深く仕舞い込んでおり、今さらそれを取り出すのは至難の業です。
そこで私はスライド式の窓ガラスをすっかり閉めたのですが、その直後私の顔と腕に何か液体の飛沫のようなものが当たるのを感じました。
その飛沫は開いたままになっているひとつ前の窓から飛び込んで来たようなのですが、車内も暗くて状況がよくわかりません。雨が降っている気配もないのにおかしいなあと思いながら、おそるおそる腕の濡れたあたりの匂いを嗅いでみますと・・・

あっ・・・カレーだ・・・

どうやら上の寝台の客が窓からカレーの汁を捨てたらしいのです。たぶんさっき休憩した茶店で買ったカレーの残りなのでしょう。

まあ最悪の場合もっと違うものが降り注ぐということもあり得なくもないので、それに比べりゃたいしたことはないのですが、やはり他人の食べ残しを浴びせられるというのはあまり気持ちのいいものではありません。
でもまあすぐ横の窓を閉めた後だったため、被害が最小限に食い止められたのが不幸中の幸いでした。

そんなカレーにまみれ、寒さに震えた一夜も明け始めました。

インド・ライプール発アラハバード行長距離バスやはりその間私はほとんど眠ることができず、ひたすら70年代昭和歌謡を聞き続け、年代順に登場して来た出場歌手もついに1974年あたりのアイドル割拠の時代に突入しておりました。
このころのアイドルは天地真理、浅田美代子、アグネス・チャン、麻丘めぐみ、安西マリアなど、「あ」で始まる名前が実に多いのです。まさしく「あ」は「アイドル」の「あ」といったところですね。(ミニ情報)

バスは平地に出たかと思えばまた山道に入るといったことを繰り返しながら突き進みます。

どこもとてもきれいな風景なのですが、あいにく寒さのためにしっかり閉ざした窓ガラスにはスモークフィルムが貼られ、さらにその上にカレーのしぶきがべちゃべちゃ付いているためによく見えないのがとても残念でした。

6時20分、バスはレワ(REWA)という町に入りました。

インド・ライプール発アラハバード行長距離バス地図で見るとレワはマディヤ・プラデシュ州の町で、私が初め考えていたルートであるナグプール、ジャバルプルを結ぶ幹線道路のさらに延長線上にある町でした。

ということは・・・このバスはついに山道を抜け、アラハバードへと続く幹線道路に入ったということです。

お~し!これであとは快適なバスの旅となるぞ!

しかしそうは簡単にいかないのがインドです。

インド・ライプール発アラハバード行長距離バス一旦はわりとまともな道を走り出しホッとしたのもつかの間、やがて道は今までで一番ひどい状態になって来ました。
一応舗装はされている、いえ、かつてはされていたらしいのですが、そのほとんどがひび割れ、ものすごい凹凸路面になってしまっていて、バスはまるで嵐にもまれる小舟のように、前後左右に大きくかしぎながらゆっくり進むのが精いっぱいとなってしまいました。

さらに先行する車や対向車が巻き上げる土ぼこりがすさまじく、メガネのレンズなど瞬く間にサンドペーパーみたいになってしまうのです。

見れば沿道の木々の葉もホコリで真っ茶色です。
これじゃあこの辺に住む人も肺をやられてしまうのではないかと心配になります。

そんな悪路の途中でバスは朝の休憩に入りました。

インド・ライプール発アラハバード行長距離バスバスから降りた私は、ドライブイン(というほどのものではありませんが)の庭に横たわるホースに開いた小さな穴から吹き出す水で顔と腕を洗い、一夜を共にしたカレーとようやくサヨナラしたのであります。

休憩を終え再び走り出したバスですが、しばらくはこの悪路を進まなければならないようで、私は洗ってきれいにしたメガネをカバンに仕舞い込むと、ホコリのせいばかりではない少しぼやけた風景をぼんやりと眺め続けたのでありました。

前のページへ行く目次へ行く次のページへ行く

動物の鈴・アニマルベル

君の行く道は果てしなく遠い、そして想像よりだいぶ険しいのだった:ライプールからアラハバードへ

すでにとっぷりと暮れたインドの大地を、なぜか70年代昭和歌謡をBGMに(私だけですが)、バスは快調に飛ばして行きます。

途中のビラスプールという町で二度目の休憩に入り、再び走り出したバスはいよいよ山道へと差し掛かりましたが、これがあーた、想像以上にひどい道なのです。

道は一応簡易舗装されているのですがその幅が狭く、対向車が来ると片輪を路肩に落とさねばならないのです。さらにところどころに大きな穴が開いているため、たびたびバスはその下腹を路面にゴリゴリとこすりながら進みます。当然そういう道ではスピードも出ず、なるほどこれなら600kmの道のりに19時間もかかるというのも納得なのです。

それでもインドのバスはちょっとでも隙があればスピードを出します。
幸か不幸かあたりは漆黒の闇の為よく見えない(見ないで済む)のですが、狭い山道をバカみたいなスピードで突っ走っては、突然の対向車の出現に慌ててブレーキを踏むということがしばしば起こります。

インド・ライプール発アラハバード行長距離バスそんな山道をどれほど走ったでしょうか。バスはやがて山の中の集落らしきところで止まりました。
時計を見れば10時半でしたが、どうやらここでまた休憩を取るようです。

私もずっと座席の上で胡坐をかいたり膝を抱えたりという姿勢で70年代昭和歌謡を聞いておりましたので、いっちょ外に出て手足を伸ばしておこうかと思い、足元に脱いでいたサンダルを探したのですがなぜか見当たらないのです。
どうやら激しいカーブと急ブレーキの連続で、私のサンダルはどこかに移動して行ってしまったらしく、ようやくそれをひとつ前の席の足下に見つけました。

インド・ライプール発アラハバード行長距離バスバスから降りるとあたりは真っ暗でシーンと静まり返っていて、この茶店だけが煌々と灯りを点けて営業中というところがちょっと不気味です。

まあ私の乗って来たバスが通るくらいなので、この狭い山道は一応幹線道路なのでしょう。
なのでこんな山の中の小さな茶店でも、ここを通るドライバーや旅人にとってはとても貴重な休憩ポイントで、いわばインド版「道の駅」といったところなのかもしれません。

インド・ライプール発アラハバード行長距離バスインド人の夕飯は結構遅めだとは知っておりましたが、さすがにこんな時間(夜の10時半)に食事をするとは思ってもいませんでした。

小学生くらいの子どもまで借り出しての家族総出態勢の茶店ですから、食事と言ってもあらかじめ決まったカレー定食くらいしかないのですが、バスの乗客のほとんどがそれを注文したようで、調理を担当するこの店の主人は大忙しで、遅れて注文した私のチャイなどなかなか出て来ないのです。

インド・ライプール発アラハバード行長距離バスようやく出て来たチャイをすすりながら、あらためて周りを見渡しましたが、本当に暗くていったいこの辺りにどれくらいの家があるのかすらわかりませんでした。

チャイも飲み終わったので次は小用を足そうと思うのですが、この道の駅にはトイレがないようです。

そこでバスから少し離れた脇道に入り、草むらに向かって用を足したのですが、暗闇の中からコブラが飛び出して来て、大切なところを噛みつかれでもしたらどうしようと思うと、怖くて怖くて思うようにコントロールが定まらない私だったのであります。

インドの夜、怖ぇ~

前のページへ行く目次へ行く次のページへ行く

木彫りのガネーシャ